
「人の顔色がすごく気になる」
「音や光、人混みだけで疲れてしまう」
「仕事から帰ると、何もする気になれない」
「しっかり寝たはずなのに疲れが残っている」
いわゆる「繊細さん」「HSP」と呼ばれる方から、このようなお悩みを聞くことがあります。
そんなとき、心や性格の問題だけを考える必要はありません。
食事量が少ない、鉄やビタミンDなどの栄養素が不足している、睡眠が乱れているなど、身体側の要因が疲れやすさに重なっていることもあります。
ただし、栄養を摂ればHSPが治るという意味ではありません。
この記事では、繊細さとうまく付き合いながら毎日を過ごすために、栄養の視点から自分でできることを考えていきます。
繊細さん(HSP)とは?
HSPは「Highly Sensitive Person」の略で、医学的な病名ではありません。
研究では「Sensory Processing Sensitivity(SPS:感覚処理感受性)」という言葉が使われ、外から入ってくる刺激への感受性や反応性、情報を深く処理する傾向などに個人差があることが研究されています。
たとえるなら、高感度のカメラのようなものです。
周囲が気づかないような人の表情や声の変化、音、光、においなどを細かく感じ取る方もいます。
これは単純に「弱い性格」という話ではありません。
一方で、受け取る刺激が多い環境では、疲れやすさやストレスを感じることもあります。
だからこそ大切なのは、繊細さをなくそうとすることではなく、疲れをためすぎない生活環境をつくることです。
「疲れやすい=HSP」と決めつけないことも大切
繊細な方が疲れていると、「HSPだから仕方がない」と思ってしまうことがあります。
しかし、疲労にはさまざまな原因があります。
睡眠不足、食事量の不足、貧血、鉄不足、甲状腺の病気、感染症、睡眠時無呼吸、心理的なストレスなどでも疲れやすさは起こります。
以前は「副腎疲労」という言葉で、長期間のストレスによって副腎が疲れてコルチゾールを作れなくなると説明されることがありました。
しかし現在、「副腎疲労」は医学的に確立された病気とは認められていません。本当の副腎機能低下症とは区別して考える必要があります。
つまり「疲れるから副腎が疲れている」と決めつけるより、身体の状態を一つずつ確認することが大切です。
繊細さんにまず見直してほしいのは「食事全体」
私は分子栄養学を学ぶ中で、特定の栄養素だけを摂るのではなく、まず普段の食事を確認することが大切だと考えています。
朝食をほとんど食べない、昼はパンだけ、夕食まで何時間も何も食べないという生活では、必要なエネルギーや栄養素を十分に摂れないことがあります。
栄養は薬ではありません。
しかし身体を動かしたり、神経や筋肉を働かせたりするためには、食事から必要な材料を摂ることが必要です。
そのうえで、特に確認したい栄養素を見ていきましょう。
① タンパク質|身体をつくる基本材料
肉、魚、卵、大豆製品などに含まれるタンパク質は、筋肉だけでなく、酵素やさまざまな身体の組織をつくる材料になります。
疲れている方ほど、「朝はコーヒーだけ」「昼はおにぎりだけ」という食生活になっていることがあります。
まずは毎食、卵、魚、肉、豆腐、納豆などから何か一つタンパク質源を入れてみてください。
特別な健康食品を買うより、毎日の食事を整える方が基本です。
② 鉄・ビタミンB12・葉酸|疲れやすい女性は特に確認
鉄は赤血球のヘモグロビンをつくるために必要で、酸素を身体へ運ぶ役割があります。
鉄欠乏性貧血では、疲れやすさ、身体のだるさ、集中しにくさなどがみられることがあります。
月経のある女性、食事量が少ない方、極端なダイエットをしている方などでは特に注意したい栄養素です。
ただし「疲れるから鉄サプリを飲む」という判断はおすすめしません。
鉄は多ければよい栄養素ではありません。
疲労が強い場合は、医療機関で血液検査を受け、ヘモグロビンだけでなく必要に応じてフェリチンなども含めて医師に相談してください。
ビタミンB12や葉酸の不足も貧血の原因になるため、食事全体を見ることが大切です。
③ マグネシウム|神経や筋肉にも必要なミネラル
マグネシウムは、体内の多くの酵素反応に関係し、エネルギー産生、筋肉や神経の働きなどに必要なミネラルです。
食品では、豆類、ナッツ類、種子類、海藻、緑黄色野菜、全粒穀物などに含まれています。
「マグネシウムを摂れば不安がなくなる」というものではありません。
不足しないように、いろいろな食品から摂ることを意識するくらいで十分です。
サプリメントを多量に摂ると下痢などを起こすこともあるため、食事から摂ることを基本に考えます。
④ ビタミンD|室内で過ごすことが多い方は意識したい
ビタミンDは骨やカルシウム代謝だけではなく、筋肉や免疫機能にも関係しています。
日本人5,518人を調べた研究では、98%の方で25(OH)Dが30ng/mL未満だったと報告されています。ただし、ビタミンDの「不足」をどの数値で区切るかについては、現在も議論があります。
特に室内で過ごすことが多い方は意識したい栄養素です。
食事では、鮭、しらす、イワシなどの魚類、卵黄、きのこ類などから摂ることができます。
また、ビタミンDは日光を浴びることでも皮膚でつくられます。
ただし、必要な日光照射時間は季節、地域、時間帯、服装、肌の状態などで変わるため「毎日○分浴びればよい」と一律には言えません。
ビタミンDは「免疫を上げる薬」ではありません
ここはとても大切です。
ビタミンDは免疫機能に関わっていますが、「ビタミンDを摂ればインフルエンザにならない」「ワクチンよりビタミンDが大切」という意味ではありません。
呼吸器感染症に対するビタミンD補給については、わずかな予防効果を示した研究がある一方、明確な効果が認められなかった大規模研究もあり、結果は一貫していません。
ビタミンDは「不足しないようにする栄養素」と考えるのがよいでしょう。
サプリメントで大量に摂取すると高カルシウム血症などを起こす可能性があります。
必要に応じて血液検査の25(OH)Dを確認し、サプリメントを使用する場合は医師や専門家へ相談してください。
何を食べればいい?難しく考えなくて大丈夫です
繊細さん専用の特別な食事があるわけではありません。
朝は卵や納豆、昼は肉や魚、夜は魚や豆腐というように、毎食何かしらのタンパク質を入れる。
魚を週の食事に取り入れる。
野菜、海藻、豆類、きのこなども一緒に食べる。
まずはこのような普通の食事を整えるところから始めてみてください。
サプリメントを何種類も増やすより、食事、睡眠、適度な運動、休息を整える方が先です。
身体だけでなく「刺激を減らすこと」もセルフケア
栄養状態を整えても、毎日強い刺激を受け続けていれば疲れてしまいます。
- 人混みから帰ったら一人で静かに過ごす時間をつくる
- スマートフォンを見る時間を少し減らす
- 強い光や音から離れる
- 疲れてから休むのではなく、疲れる前に少し休む
繊細な方にとっては、このような「刺激から離れる時間」も大切なセルフケアです。
食事だけで何とかしようとしなくて大丈夫です。
当院でできること
当院では、HSPを病気として治療することはしていません。
また、整体によって栄養不足や貧血、甲状腺疾患などを治すこともできません。
そのため、強い疲労や体重変化、動悸、息切れなどがある場合には、まず医療機関での検査をおすすめしています。
そのうえで、身体の緊張、呼吸、睡眠、運動、食事、日常生活でのストレスなどを一緒に整理し、その方に合ったセルフケアを考えていきます。
整体だけ、心理だけ、栄養だけと一つに決めるのではなく、今の身体に何が必要なのかを一緒に考えることを大切にしています。
このような疲れ方は一度医療機関へ
食事や休息を見直しても強い疲労が続く場合は、「繊細だから」と決めつけないことも大切です。
特に、急激な体重減少、息切れ、強い動悸、発熱、強いめまい、筋力低下、月経量が非常に多い、日常生活が難しいほどの倦怠感などがある場合は医療機関へ相談してください。
貧血、甲状腺疾患、睡眠障害など、別の原因が隠れていることがあります。
よくある質問
- QHSPは栄養で治りますか?
- A
HSPは病気ではなく、栄養で治療するものではありません。ただし鉄やビタミンDなどが不足していると、疲労など別の症状が重なることがあります。食生活を整えることは、身体の土台を整える方法の一つです。
- Q繊細で疲れやすい人はビタミンDを飲んだ方がいいですか?
- A
HSPだからビタミンDサプリが必要という根拠はありません。まずは魚や卵などの食品を取り入れ、適度に屋外で過ごすことを意識しましょう。ビタミンD不足が疑われる場合は、検査が必要か医師に相談してください。
- Q鉄サプリを飲めば疲れにくくなりますか?
- A
鉄不足がある場合には治療が必要になることがありますが、自己判断での長期摂取はおすすめしません。疲労や貧血が気になる場合は、自己判断でサプリを始める前に医療機関で血液検査を受けてください。
- Q疲れたときは何を食べたらいいですか?
- A
特定の食品だけを大量に食べるより、主食・タンパク質・野菜などを組み合わせることを基本にしてください。魚、卵、大豆製品、肉、野菜、きのこ、海藻などを日々の食事に取り入れるのがおすすめです。
まとめ
繊細な方は、光、音、人の表情、周囲の雰囲気など、多くの刺激を受け取って疲れやすいと感じることがあります。
そんなときは「自分は弱い」と考えるのではなく、まず身体が疲れていないか確認してみてください。
- 食事は足りているか
- タンパク質や鉄、ビタミンDなどが不足していないか
- 睡眠は取れているか
- 一人で静かに休む時間はあるか
このように一つずつ確認していくと、自分に必要な対策が見えてくることがあります。
繊細さそのものをなくす必要はありません。
大切なのは、自分が疲れやすい環境や身体の状態を知り、食事・睡眠・運動・休息を自分に合わせて整えていくことです。
強い疲労が長く続く場合は、栄養不足やHSPだけと考えず、医療機関で身体の状態も確認してください。

参考文献
- 『オーソモレキュラーダイエット』:安藤麻希子
- 『敏感すぎるあなたへ』:クラウス・ベルンハルト
- 『心身の不調が楽になる鉄分ちょい足しごはん』:毛利有香
- 『運動脳』:アンデシュ・ハンセン
- Sensory processing sensitivity: theory, evidence, and directions:Greven CU, Trupp MD, Homberg JR, Slagter HA
- Vitamin D – Health Professional Fact Sheet:NIH Office of Dietary Supplements
- Iron – Health Professional Fact Sheet:NIH Office of Dietary Supplements
- Magnesium – Health Professional Fact Sheet:NIH Office of Dietary Supplements



