
「急に食べられなくなることがある」「反対に、夜になるとパンやお菓子をたくさん食べてしまう」「眠れない、イライラする、気持ちが落ち込む」
50代の更年期には、身体だけでなく、気持ちや睡眠、食欲などにもさまざまな変化が起こることがあります。
今回ご紹介するのは、病院で心身症・摂食障害といわれ、更年期の不調に加えて、長年にわたる家族関係のストレスにも悩んでおられた50代女性のケースです。
この方の場合、単純に「食事の問題」として考えるだけでは十分ではありませんでした。
更年期による身体の変化、睡眠不足、食生活、身体の緊張、家族関係、そして30年近く自分の気持ちを抑えてきた生活。
いくつもの問題が重なっていたのです。
「検査では大きな異常がないのにしんどい」「食事だけ気をつけてもなかなか変わらない」「身体を整えてもまた調子を崩してしまう」
そのような方にも、一つのケースとして読んでいただければと思います。
- 更年期は身体だけでなく心も揺れやすい時期です
- 心身症は「気持ちだけの問題」ではありません
- 摂食障害は「意志が弱いから」起こるものではありません
- 50代女性|食べられないのに夜になるとたくさん食べてしまう
- 30年近く「言いたいことを言えない」生活が続いていました
- 自分の気持ちが分からなくなる「アレキシサイミア」という考え方
- 最初から「考え方を変えましょう」とは言いませんでした
- 少し余裕が出てから「私は本当はどうしたい?」を考えました
- 「私はこうしたい」と言えるようになってきました
- 「我慢できる人ほど大丈夫」とは限りません
- 当院では「身体・生活・気持ち」の3方向から考えます
- 摂食障害が疑われる場合は医療機関での確認も大切です
- 更年期に食欲や気持ちが不安定になっている方へ
- まとめ
- 関連記事
- 参考文献・出典
更年期は身体だけでなく心も揺れやすい時期です
更年期とは一般的に、閉経前の5年間と閉経後の5年間を合わせた約10年間をいいます。
日本産科婦人科学会によると、この時期には女性ホルモンであるエストロゲンが大きく揺らぎながら低下していきます。
そのため、
- ほてり、のぼせ、発汗
- 動悸
- めまい
- 頭痛
- 肩こり
- 腰や背中の痛み
- 疲れやすさ
- 気分の落ち込み
- イライラ
- 意欲の低下
- 眠れない
など、さまざまな症状がみられることがあります。
そして大切なのは、更年期の不調を「女性ホルモンだけの問題」と考えないことです。
日本産科婦人科学会でも、更年期障害にはホルモンの変化だけでなく、加齢による身体の変化、心理的な要因、家庭や職場などの社会的な要因が複合的に影響すると説明しています。
たとえば、
「更年期による身体の変化+睡眠不足+家族のストレス+食生活の乱れ」
というように、いくつもの要因が同時に重なっていることがあります。
今回の女性も、まさにそのような状態だったのではないかと考えました。
心身症は「気持ちだけの問題」ではありません
「心身症」と聞くと、「精神的な問題なのかな」「気の持ちようなのかな」と思う方もいるかもしれません。
しかし、そういう意味ではありません。
心身症とは、身体疾患の中で、その発症や経過に心理的・社会的な要因が密接に関わっている病態をいいます。
つまり、心と身体を別々に考えるのではなく、ストレスや生活環境などが身体の状態にも関係していると考えていきます。
人は強い緊張やストレスが続くと、眠れなくなったり、食欲が変化したり、身体に力が入り続けたりすることがあります。
反対に、睡眠不足や身体の疲労が続けば、気持ちに余裕がなくなったり、不安を感じやすくなったりすることもあります。
「心が原因なのか、身体が原因なのか」とどちらか一方に決める必要はありません。
むしろ、身体、睡眠、食事、心理状態、人間関係、生活環境などを一緒に見ていくことが大切なケースもあります。
摂食障害は「意志が弱いから」起こるものではありません
摂食障害には、神経性やせ症、神経性過食症、過食性障害など、いくつかのタイプがあります。
単純に「食べすぎる」「食べなさすぎる」という問題ではありません。
食行動だけでなく、体重や体型についての考え方、不安や感情、生活環境、ストレスなど、さまざまな要因が関係します。
食事を強く制限した反動から過食につながるケースもあります。
そのため、「我慢すればいい」「自分で食べる量を調整すればいい」と本人の意志だけの問題にしてしまうと、かえって本人を追い詰めてしまうことがあります。
今回の女性については、病院で「心身症・摂食障害」といわれていましたが、当院で摂食障害の種類を診断したわけではありません。
私は「なぜ食べられないのか」「なぜ夜になると食べてしまうのか」だけに注目するのではなく、その背景にどのような生活があるのかを詳しく伺うことにしました。
50代女性|食べられないのに夜になるとたくさん食べてしまう
この方は50代の女性です。
更年期の症状に加えて生活習慣が乱れ、特に睡眠が十分に取れていませんでした。
急に食欲がなくなり、あまり食べられなくなることがある一方で、夜中になると強い空腹を感じ、パンやお菓子などをたくさん食べてしまうこともあったそうです。
病院では心身症・摂食障害といわれていました。
そこで食事や睡眠について詳しくお話を伺っていったのですが、さらに話を続けていくと、この方が長年抱えてこられた大きな問題が見えてきました。
それが家族関係でした。
30年近く「言いたいことを言えない」生活が続いていました
この方は結婚してから30年近く、義理のご家族との関係で大きなストレスを抱えてこられたそうです。
特に義妹との関係がつらく、「嫁より親兄弟を大切にするのが当然」というようなことを言われるなど、長年傷つく言葉を受けてきたと話してくださいました。
義父からも、主婦であるこの方の食事や生活について否定的なことを言われることがあったそうです。
本来であれば、一番そばにいるご主人に自分の気持ちを分かってほしかったのだと思います。
しかし、ご主人も自分の両親や兄弟を非常に大切にされる方で、奥様のつらさを十分に受け止めてもらえなかったそうです。
家事についてもほとんど一人で担っておられました。
さらにご自身の両親は早くに亡くなられ、結婚後は以前の友人とも次第に疎遠になっていったそうです。
つまり、この方には長い間、つらい時に安心して自分の気持ちを話せる場所がほとんどありませんでした。
その話を聞いて、私は、「本当に辛抱強い方ですね。今まで、本当によく頑張ってこられましたね」とお伝えしました。
すると、その方は静かに涙を流されました。
私はその姿を見て、身体だけをみていてはいけないと改めて感じました。
30年近く、自分の気持ちを抑えながら生活してきたのです。
これだけ長期間、強いストレスや孤独を抱えていれば、心身への負担が大きくなっていても不思議ではないと感じました。
そして、「これからは、自分をもっと大切にしてください」とお話ししました。
自分の気持ちが分からなくなる「アレキシサイミア」という考え方
心理学や心身医学には「アレキシサイミア」という考え方があります。
日本語では「失感情症」と訳されることがありますが、病名というより、
「自分が今どんな感情を感じているのか分かりにくい」
「自分の気持ちを言葉で表現することが難しい」
といった特徴を表す概念です。
長い間、自分の気持ちより周囲を優先し、嫌なことがあっても我慢する生活を続けている方から、
「自分がどうしたいのか分からない」
「嫌なのか、悲しいのか、腹が立っているのか、自分でも分からない」
という言葉を聞くことがあります。
こうした「自分の感情に気づき、それを言葉にすることの難しさ」を理解するとき、一つの参考になるのがアレキシサイミアという考え方です。
摂食障害のある方では、感情を認識したり言葉で表現したりする難しさが比較的多くみられることも、研究で報告されています。
ただし、ここは大切なところです。
アレキシサイミアが摂食障害を起こすと断定できるわけではありません。
また、長年我慢したから必ずアレキシサイミアになるわけでもありません。
あくまで「その人に何が起きているのか」を理解するための一つの視点です。
今回の女性についても、私は診断名を当てはめるのではなく、「自分の気持ちを長い間、言葉にできない生活を続けてこられた」という部分を大切に考えました。
最初から「考え方を変えましょう」とは言いませんでした
30年近くつらい状況が続いてきた方に、
「もっと前向きに考えましょう」
「気にしないようにしましょう」
「嫌なら言えばいいじゃないですか」
と言っても、簡単にできるものではありません。
できるのであれば、とっくにできていたと思います。
この方の場合、まず必要だと考えたのは、身体と生活の土台を少しずつ整えていくことでした。
身体の緊張や動きを確認しながら無理のない範囲で施術を行い、睡眠や食事、運動などの生活についても一緒に見直していきました。
睡眠不足や疲労が強く、心にも身体にも余裕がない時に、自分の人生や家族との関係について深く考えることは大きな負担になります。
そのため、いきなり心理的な問題を掘り下げるのではなく、その方の状態を見ながら進めていきました。
少し余裕が出てから「私は本当はどうしたい?」を考えました
身体や生活に少し余裕が出てきた段階で、
「本当はどうしたかったのか」
「何が嫌だったのか」
「誰に何を伝えたかったのか」
「これから自分はどうしたいのか」
ということを一緒に整理していきました。
認知行動療法などの考え方も参考にしながら、自分の考え方や行動の癖を振り返ったり、日記を書いて気持ちを言葉にしたりすることも行いました。
また、ご本人が以前から興味を持っていたヨガにも、無理のない範囲から取り組んでもらいました。
私はこの方にとって大切なのは、「義理の家族を変えること」ではないと考えていました。
相手を自分の思いどおりに変えることは難しいからです。
それよりも、
「私は本当は嫌だった」
「私はこうしたい」
「これは私にとって大切な時間です」
と、自分の気持ちに気づき、それを少しずつ表現できるようになることが大切なのではないかと考えました。
「私はこうしたい」と言えるようになってきました
ある時、この方が義理のご家族に、
「私は家事もしている。自分の趣味をする時間も大切にしたい」
という趣旨のことを、ご自身の言葉で伝えることができたそうです。
それまで何十年も飲み込んできた言葉でした。
さらに、ご主人とも時間をかけて話し合い、自分がどれほどつらかったのか、そしてこれからどうしたいのかを少しずつ伝えるようになりました。
その後、
「以前より眠れるようになった」
「少しやる気が戻ってきた」
「やりたかったヨガもできるようになった」
「少しずつ自分の言いたいことを言えるようになってきた」
と話してくださいました。
もちろん、これは一人の方の経過です。
この変化を整体施術だけによるものと考えることはできません。
医療機関での対応、ご本人自身の取り組み、睡眠や生活の変化、ご主人との話し合い、家族関係など、さまざまなことが関係していると考えています。
それでも、この方が「自分の人生をもう一度、自分で考えてみよう」と思えるようになられたことは、とても大きな変化だったと思います。
「我慢できる人ほど大丈夫」とは限りません
この方をみさせていただいて、私が強く感じたことがあります。
それは「我慢強いこと」と「心身への負担が少ないこと」は同じではないということです。
真面目で責任感が強い、人に迷惑をかけたくない、頼まれると断れない、嫌なことを嫌と言えない、自分より家族を優先してしまう。
こうした性格や傾向そのものが病気を起こすわけではありません。
しかし、強いストレスが長期間続き、十分に休めず、自分の気持ちを話せる場所もない状態が重なると、心にも身体にも余裕がなくなっていくことがあります。
だからといって、いきなり大きく人生を変える必要はありません。
「今日はここまででいい」
「これは本当は嫌だったのかもしれない」
「私は本当はどうしたいんだろう」
そんなところから始めてもいいのではないでしょうか。
当院では「身体・生活・気持ち」の3方向から考えます
更年期の不調や今回のような心身症など、さまざまな要因が重なっている方の場合、痛い場所だけをみたり、食事だけを変えたり、考え方だけを変えようとしたりしても、十分ではないことがあります。
当院では、
- 身体の緊張や動き
- 睡眠
- 食事
- 運動
- 日々の生活習慣
- 不安やストレス
- 必要に応じて家族や職場などの人間関係
について伺いながら、「今、この方に何が必要なのか」を一緒に整理することを大切にしています。
今回の方も、最初から家族関係だけを問題にしたわけではありません。
身体をみて、生活をみて、話を聞いていく中で、少しずつ全体像が見えてきました。
そして身体と生活に少し余裕が出てきたからこそ、自分の気持ちにも向き合えるようになったのではないかと感じています。
摂食障害が疑われる場合は医療機関での確認も大切です
摂食障害は身体状態にも大きな影響を及ぼすことがあるため、診断や治療については医療機関での対応が重要です。
特に、
- 急激に体重が減っている
- ほとんど食事が取れない
- 嘔吐を繰り返している
- 強い脱水がある
- 失神する
- 著しく体力が低下している
といった場合には、整体より先に医療機関で身体の状態を確認する必要があります。
そのうえで、「身体の緊張を少し楽にしたい」「睡眠や食事など生活を見直したい」「自分の気持ちを整理する場所がほしい」といった部分について、当院で一緒に考えられることがあります。
更年期に食欲や気持ちが不安定になっている方へ
50代という時期は、女性ホルモンの変化だけではありません。
親のこと、子どものこと、夫婦関係、仕事、自分自身のこれからなど、人生のさまざまな問題が重なりやすい年代でもあります。
「更年期だから仕方がない」
「自分の気持ちが弱いから」
「食べ方を直せばいい」
と一つの原因だけで考えず、「今の自分には何が重なっているのだろう?」と一つずつ整理してみることが大切だと私は考えています。
30年間続いてきたことが、一日で変わるわけではありません。
それでも、少し眠れるようになる、食事が取れるようになる、身体を動かしたいと思えるようになる、自分の気持ちに気づく、「私は嫌だった」と言葉にできる、誰かに相談できる。
そうした変化を一つずつ積み重ねていくことで、少しずつ生活が変わっていく方もおられます。
「身体のことなのか、心のことなのか、自分でも分からない」そんな状態でも大丈夫です。
身体、生活、気持ちを一緒に整理していくことで、見えてくることがあるかもしれません。
まとめ
更年期には、女性ホルモンであるエストロゲンが大きく揺らぎながら低下します。
しかし、更年期の不調にはホルモンだけでなく、加齢による身体の変化、睡眠、食生活、心理的な要因、家庭や仕事などの社会的な要因が複雑に関係することがあります。
今回の50代女性の場合も、更年期、睡眠不足、食生活の乱れだけではなく、30年近く「言いたいことを言えない」家族関係が大きな負担になっていました。
身体を整え、生活を見直し、少し余裕が出てきてから自分の気持ちにも目を向けていく。
そして少しずつ、「私はこうしたい」と言えるようになっていきました。
身体だけ、心だけ、食事だけに原因を決めつけるのではなく、その人の生活全体を見ること。
私はそこをとても大切にしています。
更年期の不調、食欲の変化、睡眠、不安やストレスなど、いくつもの問題が重なって「どこから考えればいいのか分からない」と感じている方は、お気軽にご相談ください。

関連記事
参考文献・出典
- 日本産科婦人科学会「更年期障害」
- 国立精神・神経医療研究センター 摂食障害全国支援センター「摂食障害情報ポータルサイト」
- Westwood H, et al. Alexithymia in eating disorders: Systematic review and meta-analyses of studies using the Toronto Alexithymia Scale. Journal of Psychosomatic Research. 2017.
- 日本心身医学会関連資料・心身医学領域における心身症の定義
- 『心理学概論』:山内弘継 他




