
「以前は普通に弾けていたギターが、思うように弾けなくなってきました」
「指がうまく動かず、細かな動作がしにくいんです」
「できることなら、もう一度ギターを楽しみたいです」
今回ご紹介するのは、実際に当院へ来院された60代男性のお話です。
病院ではパーキンソン病と診断され、お薬による治療を受けておられました。
さらに手指の動かしにくさがあり、ジストニアとも診断されていました。
この方が一番望んでおられたのは、「病気をなくしたい」ということだけではありませんでした。
「もう一度、好きなギターを弾きたい」という、とても具体的な目標がありました。
私はこの言葉がとても印象に残っています。
パーキンソン病は、脳の神経に関係する病気です。医療機関での診察や薬物療法、必要に応じたリハビリテーションが大切です。
そのことを大前提として、当院では体の緊張や姿勢、呼吸、体の使い方などを確認しながら、この方が少しでも好きなことを続けられるよう一緒に取り組んでいきました。
この記事では、パーキンソン病について簡単に説明しながら、実際にどのような状態で来院され、どのような目標を持って施術を受けられたのかをご紹介します。
※この記事は実際の来院例をもとにしていますが、施術によるパーキンソン病そのものの治療効果を示すものではありません。また、同じような経過をすべての方に保証するものではありません。
- パーキンソン病と診断され、手や指が動かしにくい方
- ジストニアによる手指の動かしにくさで困っている方
- ギターや楽器演奏など、好きなことを続けたい方
- 病院で治療を受けながら、体のケアも考えている方
- 「できなくなったこと」ではなく「もう一度やりたいこと」を大切にしたい方
パーキンソン病とは
パーキンソン病は、脳の中で体の動きを調整している神経の働きが少しずつ変化し、動作にさまざまな影響が現れる病気です。特にドーパミンという神経伝達物質に関わる神経細胞が減少することが知られています。
代表的な症状としては、次のようなものがあります。
- 動作がゆっくりになる
- 筋肉がこわばる
- 歩く時に一歩目が出にくい
- 手足が震える
- 歩幅が小さくなる
- 姿勢やバランスを保ちにくくなる
- 字を書く、ボタンを留めるなど細かな作業がしにくくなる
ただし、すべての方に同じ症状が現れるわけではありません。また、体の動きだけではなく、便秘、睡眠の問題、気分の落ち込み、不安など、運動以外の症状がみられることもあります。
治療の中心になるのは脳神経内科などで行われる薬物療法で、症状や状態に合わせてリハビリテーションや運動なども組み合わせていきます。日本神経学会の診療ガイドラインでも、薬物療法だけではなくリハビリテーションを含めた非薬物療法について取り上げられています。
なぜギターのような細かな動作が難しくなることがあるのでしょうか
ギターを弾く動作を考えてみると、実はとても複雑です。右手と左手がそれぞれ違う動きをしながら、指を細かく動かし、押さえる力や弦を弾くタイミングまで瞬間的に調整しています。
パーキンソン病では、動き始めにくい、動作が小さくなる、筋肉がこわばるといった変化が起こることがあります。そのため、文字を書く、箸を使う、服のボタンを留めるといった細かな作業に難しさを感じる方もおられます。
今回来院された男性も、以前は楽しめていたギターが徐々に弾きにくくなっていました。
しかも、この方の場合はパーキンソン病だけではなく、病院でジストニアとも診断されていました。
パーキンソン病とジストニア

ジストニアとは、自分の意思とは関係なく筋肉に力が入ったり、同じような収縮が繰り返されたりすることで、体がねじれる、特定の姿勢になってしまう、思うような動作ができないといった症状が現れる運動障害です。
手や腕だけではなく、足、首、顔などに現れる場合があり、パーキンソン病の方にもジストニアがみられることがあります。
また、普段はそれほど問題がなくても、ある特定の動きをすると症状が現れやすくなる「動作特異性ジストニア」と呼ばれるタイプがあります。
例えば、
- 字を書こうとすると手に力が入りすぎる
- 楽器を演奏するときに指が思うように動かない
- 特定の動作をすると手や腕が意図しない方向へ動く
などです。
楽器を長く演奏している方にみられるものは「音楽家ジストニア」と呼ばれることもあります。
今回の男性も、自分の意思とは別に手が動いたり、ギターを弾こうとすると指にうまく力が伝わらなかったりする状態がありました。また、首にも少し傾きがみられました。
パーキンソン病に伴うジストニアでは、薬が効いている時間帯との関係がみられる場合もありますので、症状が変化したときには主治医に伝えることも大切です。
ジストニアとイップスは同じものではありません
「楽器が弾けない」「今までできていた動作ができない」と聞くと、イップスを思い浮かべる方もいるかもしれません。
しかし、ジストニアとイップスは同じものではありません。
イップスは、野球の送球やゴルフのパッティングなど、それまで何度もできていた特定の動作が突然うまくできなくなる現象として知られています。強い緊張やプレッシャーなど心理的な要素が関係しているケースがある一方で、研究では動作特異性ジストニアに近いタイプが含まれる可能性も指摘されています。
そのため、「イップスは気持ちの問題」「イップスとジストニアは同じもの」と単純に分けることはできません。
見た目には似ている場合があっても、その背景は一人ひとり違います。今回ご紹介している男性はイップスとして来院されたのではなく、病院でパーキンソン病とジストニアの診断を受けていた方ですので、この記事ではこちらを中心にお話ししています。
イップスについては、別の記事で詳しくご紹介します。
医療機関での治療を続けながら施術しました
この方は当院へ来院されたときも病院へ通院し、お薬を服用されていました。当院でも、病院での治療はそのまま続けていただくようお伝えしています。
パーキンソン病は整体だけで対応する病気ではありません。
その一方で、実際に体を触らせていただくと、病名だけでは分からない一人ひとりの違いがあります。どこに力が入っているのか、呼吸はどうなっているのか、どの姿勢なら動きやすいのかなど、体全体を見ていくことはできます。
この方の場合も「手が動きにくいから手だけを見る」という考え方はしませんでした。
ギターを弾くのは指だけではありません
ギターを弾いている姿を見ると、どうしても指に注目してしまいますが、実際には首、肩、背中、肋骨、骨盤まで体全体を使っています。
姿勢を保ちながら呼吸をして、その中で肩や腕を安定させ、最後に指が細かな動きをしています。
そこで当院では、
- 首や肩周囲の緊張
- 胸郭や肋骨の動き
- 呼吸の状態
- 頭部や首周囲の状態
- 腹部の緊張
- 骨盤周囲の状態
- 背骨を含めた全身の動き
などを確認しました。
この方は首周囲に緊張があり、呼吸も浅く感じられました。そのため首だけを強く触るのではなく、頭部、肋骨、腹部、骨盤周囲なども確認しながら、背骨をやさしく揺らす施術などを組み合わせて全身を調整していきました。
目的はパーキンソン病そのものを整体で治療することではありません。できるだけ余計な力が抜け、今ある体を少しでも使いやすくするために何ができるのかを一緒に探していきました。
「もう一度ギターを弾きたい」が私たちの目標でした
この方の施術で今でもよく覚えているのは、「もう一度ギターを弾きたい」という目標が最初からとてもはっきりしていたことです。
症状を数字だけで追いかけるのではなく、「今日はギターどうでしたか?」「指は動かしやすかったですか?」と話をしながら施術を続けていきました。
私は普段から、痛みや症状だけではなく、その人がその先で何をしたいのかを大切にしています。
腰が楽になったら旅行へ行きたい方もいれば、膝が楽になったら孫と遊びたい方もいます。この男性にとって、それがギターでした。
パーキンソン病ではリハビリテーションも大切です
パーキンソン病では、薬物療法とともに運動やリハビリテーションも大切な役割を持っています。
理学療法では歩行やバランス、体の動きなどに取り組み、作業療法では着替えや料理といった日常生活だけでなく、仕事や趣味など「その人にとって大切な活動」を続ける方法を一緒に考えていきます。
実際にParkinson’s Foundationでも、作業療法では一人ひとりの生活や興味、目標に合わせ、趣味や日常生活を続けるための工夫を行うことが紹介されています。
「ギターを弾きたい」という今回の目標も、単なる指の運動ではありません。
好きな音楽を自分で奏でることは、この方にとって生活の楽しみの一つだったのだと思います。
専門的なリハビリテーションを受けている方は、主治医や理学療法士、作業療法士などと相談しながら続けてください。
約3か月後、アルペジオが弾けるようになったと聞きました
施術を続けて約3か月が経過したころ、ご本人から「最近、指が動かしやすくなってきました」と話していただきました。
そして、さらに嬉しかったのがギターでした。
ギターには「アルペジオ」という、一つひとつの弦を順番に弾いて音を重ねていく演奏方法があります。細かな指の動きが必要になるため、思うように指が動かない状態では簡単ではありません。
そのアルペジオが、「かなり弾けるようになりました」と笑顔で話してくださいました。
あのときの笑顔は、今でも忘れません。
もちろん、この経過だけから整体によってパーキンソン病やジストニアそのものが改善したと判断することはできません。病院での治療、お薬、日々の練習、体調や生活など、さまざまなことが関係していたと考える必要があります。
それでも、ご本人が最初に話されていた「もう一度ギターを弾きたい」という目標に少し近づき、嬉しそうに報告してくださったことは事実です。
パーキンソン病で本当に困っておられた中、私を信じて通院してくださったことにも、今改めて感謝しています。
病名だけではなく「何をしたいのか」を大切にしたい
病気や慢性的な症状があると、どうしても「できなくなったこと」ばかりに目が向いてしまうことがあります。
もちろん、無理をしてまで以前と同じことをする必要はありません。
しかし、その方が、
- 今もできること
- 工夫すれば続けられそうなこと
- もう一度やってみたいこと
- これからも大切にしたいこと
まで失う必要はないと思っています。
散歩を続けたい、旅行へ行きたい、料理をしたい、孫と遊びたい、好きな音楽を続けたいなど、人によって大切なものは違います。
症状だけを見るのではなく、「この方は何をできるようになりたいのだろう」と考えること。
今回の男性を施術させていただいた経験から、私はその大切さを改めて教えていただきました。
パーキンソン病に対して整体でできること・できないこと
パーキンソン病は脳の神経に関わる病気ですので、診断や投薬、病気そのものの治療については医療機関の領域になります。
整体でできないことは明確にしています。
- パーキンソン病の診断
- ジストニアの診断
- 薬の処方や変更
- パーキンソン病そのものの医学的治療
- 医療機関で行う専門的なリハビリテーションの代替
一方、当院では医療機関での治療を続けていただいたうえで、首や肩、背中などの緊張、姿勢や呼吸、体の使い方などを確認し、その方に負担の少ない方法で全身を調整していきます。
そして今回のように、「ギターを弾きたい」「もう一度○○をしたい」という目標があれば、その目標も大切にしながら一緒に考えていきます。
手や指が急に動かしにくくなった場合は、まず医療機関へ
手が震える、指が思うように動かない、字が急に書きにくくなった、歩き方が変わったといった症状には、さまざまな原因があります。
特に突然症状が現れた場合や、急に悪化した場合、手足の力が入りにくい、言葉が出にくいなど別の症状を伴う場合には、整体を先に受けるのではなく医療機関を受診してください。
すでにパーキンソン病の診断を受けている方でも、これまでと違う症状が出たり、薬が効いている時間と症状の出方が変わってきたりした場合には、まず主治医へ相談することが大切です。
好きなことを、できる範囲で続けてほしい
パーキンソン病と診断されたことで、「もう好きなことはできないのではないか」と不安になる方もおられると思います。
病状や体力によってできることには違いがありますし、無理をする必要もありません。それでも、やり方や時間、環境を少し変えることで続けられることもあります。
今回の男性には、「もう一度ギターを弾きたい」という目標がありました。
だから私も同じ方向を見ることができました。
そして約3か月後、「アルペジオがかなり弾けるようになった」と笑顔で話してくださいました。
私にとって忘れられない患者さんのお一人です。
まとめ
今回ご紹介した男性は、病院でパーキンソン病とジストニアの診断を受け、薬物療法を続けながら当院へ来院されました。
一番困っておられたことの一つが、大好きだったギターを思うように弾けなくなったことでした。
そこで「もう一度ギターを弾きたい」という目標を一緒に持ちながら、首や胸郭、呼吸、骨盤などを含めて体全体を確認し、無理のない施術を続けていきました。
約3か月後、ご本人から「指が動かしやすくなった」「アルペジオがかなり弾けるようになった」と聞いたときの笑顔は、今でも忘れません。
もちろん、一人の方の経過だけで施術の効果を一般化することはできませんし、パーキンソン病そのものを整体で治療できるわけではありません。
それでも、病気だけを見るのではなく、「この方はこれから何をしたいのだろう」というところまで一緒に考えることはできると思っています。
私を信じて通院してくださり、本当にありがとうございました。

よくある質問
- Qパーキンソン病は整体で治りますか?
- A
パーキンソン病は脳の神経に関係する病気であり、整体で病気そのものを治療することはできません。脳神経内科などでの診察や薬物療法、必要に応じたリハビリテーションが基本です。当院では医療機関での治療を続けながら、姿勢や体の緊張、呼吸、体の使い方などを確認しています。
- Qパーキンソン病でジストニアが起こることはありますか?
- A
パーキンソン病の方にジストニアがみられることがあります。筋肉が収縮して足や手、首などが意図しない方向へ動いたり、こわばったりする場合があります。薬が効いている時間帯との関連がみられる場合もあるため、症状について主治医へ伝えることも大切です。
- Qジストニアとイップスは同じものですか?
- A
同じものではありません。ジストニアは神経系の運動障害ですが、イップスはスポーツなどで特定の動作がうまくできなくなる現象です。ただし、イップスの中には動作特異性ジストニアに近いタイプが含まれる可能性も指摘されています。
- Q手や指が動かしにくい場合、最初に整体へ行ってもいいですか?
- A
原因が分からない状態で手の震えや動かしにくさが現れた場合は、まず医療機関で相談することをおすすめします。特に急に症状が出た場合や急速に悪化している場合には、脳神経内科などで適切な評価を受けることが大切です。
- Qパーキンソン病でも趣味を続けていいですか?
- A
体調や症状に合わせて安全に行える範囲であれば、趣味を続けることは生活を豊かにする大切な要素の一つです。難しくなった動作については、主治医や理学療法士、作業療法士などに相談し、やり方や環境を工夫する方法もあります。
参考文献
- 『パーキンソン病診療ガイドライン2018』:日本神経学会監修・「パーキンソン病診療ガイドライン」作成委員会編集
- 『ジストニア診療ガイドライン2018』:日本神経学会監修・「ジストニア診療ガイドライン」作成委員会編集
- 『Occupational Therapy & Parkinson’s』:Parkinson’s Foundation
- 『Dystonia』:Parkinson’s Foundation
- 『The ‘yips’ in golf: a continuum between a focal dystonia and choking』:Smith AMほか




