
以前、当院にアルコールの問題を抱えた方が来られたことがあります。
主なお悩みは不眠でした。
「眠れないからお酒を飲む」というのが本人の言い分でした。
でも、お酒を飲むと睡眠の質は悪くなり、夜中に目が覚めたり、朝から身体がだるくなったりします。
それでも、夜になるとまたお酒を飲んでしまう。
そんな状態が続いていました。
私は何とかお役に立ちたいと思い、睡眠や自律神経、栄養について勉強し、その方にできそうなことをいろいろお伝えしました。
- 食事のこと
- 睡眠のこと
- 身体のこと
- お酒との付き合い方
しかし、こちらがお伝えしたことを生活の中で実行するところまでは、なかなかつながりませんでした。こちらの話も、なかなか聞き入れていただけませんでした。
そして最終的には、「当院だけでお力になることは難しい」と判断しました。
当時は、自分の力不足を感じました。
もっと違う伝え方ができたのではないか、もっと勉強していれば、何かできたのではないか、そんなことも考えました。
でも、その経験があったからこそ、今は強く感じるようになりました。
依存症は、正しいことを説明すれば本人がやめられる、というほど単純なものではありません。
「やめたいのにやめられない」のが依存症
アルコール依存症は、単なる「飲みすぎ」とは違います。自分でコントロールできるかどうかが大切です。
依存症になると、お酒による身体的、精神的、社会的な問題が起きていても、飲酒を自分でコントロールすることが難しくなっていきます。
「身体に悪いからやめよう」「家族に迷惑をかけているからやめよう」本人も分かっていることがあります。
それでも飲んでしまうんです。
アルコール依存症では、飲酒を繰り返すうちに、お酒への欲求が強くなったり、飲まないと落ち着かなくなったり、震えや発汗、不眠などの離脱症状が現れたりすることがあります。
だから、「意志が弱い」「本気でやめる気がない」という問題だけではありません。医療機関の助けを借りながら対策していっていただきたいと思います。
ストレスから始まることもあります
依存症について学んでいると、アルコールだけではない共通点も見えてきます。
例えば、
つらい・不安・ストレスがある
↓
少し楽になりたくて何かをする
↓
一時的に気持ちが楽になる
↓
またつらくなったときに同じことをする
↓
繰り返すうちに、やめにくくなる
という流れです。
最初は、「今日はしんどいから一杯だけ」だったかもしれません。
ギャンブルなら、「少し気分転換に」ゲームなら、「嫌なことを忘れたい」薬物でも、最初から依存しようと思って始める人はいないでしょう。
ところが、一時的に気持ちが楽になった経験を繰り返すうちに、その行動を求める気持ちが強くなり、自分でコントロールすることが難しくなる場合があります。
依存症対策全国センターでも、アルコール、薬物、ギャンブルなどは、気づかないうちに少しずつ進行し、コントロールが効きにくくなることがあると紹介されています。
万引きについても、すべてが依存症というわけではありませんが、盗む衝動を抑えることが難しくなる「窃盗症」という問題があります。
対象は違っても、「やめた方がいいと分かっているのに、やめられない」という苦しさを抱えている方がおられます。
篠原涼子さんの「溺れる人」が衝撃でした
私がアルコール依存症について強く印象に残っている作品があります。
2005年に放送された篠原涼子さん主演のドラマ「溺れる人」です。
篠原涼子さんがアルコール依存症の女性を演じ、西島秀俊さんが、その女性を支える夫を演じています。実話をもとにした作品です。
私はこの作品を見たとき、かなり衝撃を受けました。
「ここまでお酒をやめられなくなるのか」「本人も苦しいのに、それでも飲んでしまうのか」そして本人だけではなく、支える家族も少しずつ疲れていく。
アルコール依存症という病気の難しさを、強く感じた作品でした。
実際にアルコール依存症をテーマにした演劇を観に行きました
2025年1月には、新聞でアルコール依存症をテーマにした演劇が心斎橋で行われることを知り、勉強を兼ねて観劇しました。

小劇場「ウイングフィールド」で行われた「あなたのとなりに」という公演です。
そこでは、断酒会のメンバーによる体験をもとにした劇、依存症の本人を支える家族の苦悩、ソーシャルワーカーの立場から見た依存症などが描かれていました。
公演後には、アルコール依存症に関わるソーシャルワーカーさんのお話を聞く機会もありました。
これを見て、改めて思いました。
本人と家族だけで何とかしようとするのは、本当に難しい。
同じ苦しみを知る「仲間」の存在
演劇の中でも特に印象に残ったのが、断酒会などで出会う仲間の存在でした。
- 自分がどれだけ苦しいのか
- なぜお酒をやめられないのか
- 家族に何を言われても変われなかったこと
- 一度やめても、また飲んでしまったこと
こうした経験は、同じ経験をした人だから分かることがあります。
依存症対策全国センターでは、自助グループを、同じ問題や似た経験を持つ人たちが集まり、体験や思いを分かち合う場所としています。
アルコールではAAや断酒会、家族にはアラノンなどがあります。医療機関での支援と並行して自助グループを利用することもできます。
私は演劇を観て、「病院に行くこと」と「同じ苦しみを知る人とつながること」の両方が大切なんだと強く感じました。
「やめなさい」だけでは届かないことがある
当院に来られた方への対応を振り返っても、今なら分かることがあります。
私は何とかしてあげたいと思っていました。
- 栄養を整えた方がいい
- 睡眠を整えた方がいい
- お酒を減らした方がいい
どれも間違ったことを伝えていたわけではないと思います。
でも、依存症では、正しいことを伝えるだけでは届かないことがある。
本人がまだお酒を手放せない時期もあります。
依存症の支援では、「やめる・やめない」の間で本人の気持ちが揺れること自体も珍しいことではないとされています。
あの経験から、「こちらが変えようとする」のではなく、「本人が専門的な支援につながること」が大切だと学びました。
不眠とアルコールにも注意が必要です
「眠れないからお酒を飲む」という方は少なくありません。
確かに、お酒を飲むと眠気が出て、寝つきが良くなったように感じることがあります。
しかし飲酒が習慣になると、アルコールが切れてくる夜中や明け方に眠りが浅くなったり、目が覚めたりすることがあります。
そして、「眠れないから飲む」「飲むから睡眠が乱れる」「また眠れないから飲む」という状態になることもあります。
不眠で悩んでいて、同時にお酒をやめられない状態になっている場合は、睡眠だけを何とかしようとするのではなく、飲酒についても専門機関に相談することが大切です。
また、飲まないと手が震える、大量に汗をかく、強い不安や不眠が出るなどの離脱症状がある場合には、自己判断だけで対応せず医療機関に相談してください。
家族だけで背負わないでください
アルコール依存症は、本人だけの問題ではなくなっていくことがあります。
家族は、「何とかやめさせたい」「また飲んでいる」「約束したのに」と疲れ果ててしまうことがあります。
家族だけで問題を解決しようとせず、第三者や専門家に入ってもらうことはとても大切です。
本人がすぐに相談に行こうとしない場合でも、家族だけで相談機関につながることはできます。
精神保健福祉センター、保健所、依存症の相談拠点、自助グループなど、相談できる場所があります。厚生労働省も、依存症専門医療機関や相談拠点、自助グループを含めた地域での支援体制を整備しています。
あの経験は失敗だったのか
当時、アルコールの問題を抱えた方のお役に立てなかったことを、私は「自分の失敗」のように感じていました。
- もっと勉強すればよかったのか
- 違う言葉なら届いたのか
- 別の方法があったのか
今でも正解は分かりません。でも、あの方との経験があったから、アルコール依存症について勉強しました。実際に演劇にも足を運びました。
当事者の苦しみだけでなく、家族の苦しみや、ソーシャルワーカーさんの思い、断酒会など仲間の存在についても知ることができました。
そして今は、「自分一人で何とかする病気ではない」ということを以前より強く感じています。
東大阪市でアルコール依存症を相談できるところ
アルコール依存症は、一人や家族だけで抱え込まず、専門的な支援につながることが大切です。
東大阪市にも、アルコール依存症について相談できる医療機関や、同じ経験を持つ方が集まる断酒会があります。
東大阪断酒会
アルコールの問題を抱えた本人や家族が参加し、同じ経験を持つ仲間と体験を分かち合うことができます。
東大阪市内でも複数の地域で例会が行われています。
「自分だけではない」と感じられることや、実際に断酒を続けている方の経験を聞けることも、自助グループの大きな役割です。
市内に布施西・太平寺・鴻池・若江・布施・枚岡などの例会があります。2026年度の案内では、若江支部は岩田公民分館で毎週木曜日19:00〜20:45、布施・枚岡などでも定期開催されています。家族会もあります。大阪府断酒会の相談窓口は 072-949-0556、代表 072-949-1229 です。
ひがし布施クリニック
東大阪市・布施にある医療機関で、アルコール、薬物、ギャンブルなどの依存症専門外来があります。
「お酒をやめたいけれどやめられない」「家族がアルコールのことで困っている」といった場合に、専門的な相談ができます。
東大阪山路病院
アルコール依存症について専門的な診療を行っている病院です。
外来だけでなく、状態によっては入院を含めた支援について相談することもできます。
精神科・心療内科でアルコール依存症専門治療を行っています。代表 072-961-3700。公式サイトでもアルコール依存症専門治療を掲げています。
アルコール依存症は、身体の状態だけでなく、心理面や生活環境、家族との関係なども含めて考えていく必要があります。
「自分たちだけでは難しい」と感じた時点で、こうした専門機関や断酒会につながることも大切な一歩です。
AA(アルコホーリクス・アノニマス)
東大阪市の公式資料では、河内永和付近と枚岡・瓢箪山方面にミーティングがあります。参加方法や最新会場はAA関西セントラルオフィス 06-6536-0828 で確認できます。AAには、お酒をやめたい本人が参加するクローズドミーティングや、一般の方も参加できるオープンミーティングがあります。
※例会日時や診療内容は変更されることがありますので、利用される際は各機関の公式情報をご確認ください。
よくある質問
- Qアルコール依存症は自分の意志だけでやめられますか?
- A
自分の意志だけでやめるのが難しいことがあります。医療機関や断酒会、AAなど、専門家や同じ経験を持つ仲間につながることが大切です。
- Q眠れないのでお酒を飲むのはよくないですか?
- A
お酒を飲むと一時的に眠くなることはありますが、夜中に目が覚めたり、眠りが浅くなったりすることがあります。「眠れないから飲む」が続いている場合は注意が必要です。
- Qお酒を急にやめても大丈夫ですか?
- A
長期間たくさん飲んでいる方では、急にやめることで手の震え、強い発汗、不眠、興奮などの離脱症状が出ることがあります。心配な場合は医療機関に相談してください。
- Q家族が本人を病院へ連れて行けない場合はどうすればいいですか?
- A
本人がすぐに動けなくても、家族だけで相談できる窓口があります。家族だけで抱え込まず、精神保健福祉センターや保健所、依存症の相談機関などに相談することができます。
- Q断酒会やAAに参加する意味はありますか?
- A
同じ経験を持つ人と話すことで、「自分だけではない」と感じられたり、実際の体験から学べたりします。医療機関での支援とあわせて、仲間とつながることも回復を支える大切な方法のひとつです。
まとめ
アルコール依存症は、本人の意志の強さだけで解決できる問題ではありません。
お酒をやめたいと思っていても、長く飲酒を続ける中で心や身体がアルコールを求めるようになり、自分一人ではコントロールすることが難しくなることがあります。
だからこそ大切なのは、一人で何とかしようとしないことだと思います。
医療機関につながること。
断酒会やAAなど、同じ経験をしてきた仲間とつながること。
そして家族も、家族だけで抱え込まないこと。
私自身、以前は目の前の方に「何とかしてあげたい」という気持ちが強く、栄養や睡眠、自律神経など、自分にできることを一生懸命お伝えしていました。
しかし実際にアルコール依存症の方と関わり、さらに演劇を通して当事者や家族、断酒会、ソーシャルワーカーの方々の思いに触れる中で、一人の力だけで支えることの難しさを学びました。
今は、私一人で何とかしようとするのではなく、その方に必要な医療機関や支援者、同じ経験を持つ仲間につながってもらうことも、大切な支援のひとつだと考えています。
うまくいかなかった経験も、決して無駄ではありませんでした。
あの経験があったからこそ、依存症について学び、実際に足を運び、以前より深く考えるようになりました。
この記事が、アルコールのことで悩んでいるご本人やご家族が、一人で抱え込まず誰かにつながるきっかけになればと思います。

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参考文献
- 厚生労働省「依存症対策」
- 依存症対策全国センター「アルコール依存症ってどんな病気?」
- 依存症対策全国センター「自助グループのご紹介」
- ドラマ「ウーマンズ・ビート ドラマスペシャル 溺れる人」



