
「なんでそんなこともできへんの?」
「みんな普通にできているのに」
「ちゃんと空気を読んでよ」
子どもの頃から、こんな言葉を何度も言われてきた方がいらっしゃいます。
本人は一生懸命なのに、周囲とうまくかみ合わない。
そして、いつの間にか「どうせ自分なんて」「また失敗するかもしれない」と考えるようになってしまう。
発達特性のある方の中には、こうした経験を重ね、人との関わりだけでなく、身体の疲れや緊張、不安などに悩んでいる方もいらっしゃいます。
今回は、発達特性と自律神経、心理面の関係について、実際の症例も交えてお伝えします。
こんなお悩みありませんか?
- 人と話すだけで、どっと疲れてしまう
- 音や光、人混みが苦手
- 仕事中、周囲に気を使いすぎて疲れる
- 人の話を聞いていないと注意される
- 予定の変更に強いストレスを感じる
- 失敗した出来事を何度も思い返してしまう
- 首や肩、背中がいつも緊張している
- 呼吸が浅く、寝ても疲れが取れない
- 自分の気持ちや、やりたいことがわからない
- 周囲に理解されず、孤独を感じている
このようなお悩みには、発達特性だけでなく、育ってきた環境や人間関係、身体の状態などが重なっている場合があります。
大切なのは、一つの原因だけで考えないことです。
発達特性のある方は、なぜ疲れやすいの?
音や光などの刺激が負担になる
例えば、スーパーに買い物へ行ったときのことを想像してください。
店内には音楽が流れ、人の話し声が聞こえ、明るい照明がついています。
さらに、商品の色や匂いなど、たくさんの情報が入ってきます。
多くの人にとって何気ない環境でも、感覚に敏感な方には大きな負担になることがあります。
たとえるなら、テレビを何台も同時につけているような状態です。
一つひとつの音は小さくても、全部が重なるとうるさく感じますよね。
同じように、周囲の刺激が多すぎると、頭が疲れたり、イライラしたり、身体が緊張したりすることがあります。
一方で、空腹や疲れなど、自分の身体の感覚に気づきにくい方もいらっしゃいます。
感覚の特徴は人によって異なるため、その方に合った環境を考えることが大切です。
周囲に合わせすぎて疲れてしまう
発達特性のある方の中には、周囲から浮かないように、一生懸命合わせている方がいらっしゃいます。
本当は人混みが苦手なのに、平気なふりをする。
相手の言葉の意味がわからなくても、わかったように振る舞う。
失敗しないように、相手の表情を何度も確認する。
このように、自分の特性や感じ方を隠して周囲に合わせようとすることを、心理学では「マスキング(カモフラージュ)」と呼ぶことがあります。
例えば、重たい荷物を持ったまま一日過ごすようなものです。
周囲からは普通に働いているように見えても、本人は帰宅するとぐったり疲れてしまう。
「人と会った翌日は何もしたくない」
そんな疲れにも、無理に周囲へ合わせ続けることが関係している場合があります。
過去の経験が自己否定や不安につながることも
「どうせ自分なんて」と思うようになる理由
子どもの頃から何度も叱られたり、否定されたりすると、少しずつ自信を失ってしまうことがあります。
「また失敗する」「どうせ嫌われる」「自分は何をやってもダメだ」心理学では、このような自分自身への基本的な思い込みを「スキーマ」と呼びます。
例えば、一度失敗しただけなら「今日はうまくいかなかった」と考えられるかもしれません。
ところが「自分はダメな人間だ」という思い込みが強くなると、小さな失敗でも「やっぱり自分はダメなんだ」と受け取ってしまいます。
これは、色のついたメガネで世界を見ているようなものです。
同じ出来事でも、メガネの色によって見え方が変わってしまうのです。
こうした思い込みは、過去の経験から身についたものであり、生まれつきの発達特性そのものとは区別して考える必要があります。
人との関わりが怖くなる心理
過去に何度も嫌な思いをすると、似た場面に出会っただけで不安が強くなることがあります。
例えば、以前職場で強く叱られた経験があると、別の職場でも上司に呼ばれただけで緊張してしまう。
脳が過去の経験を思い出し、身体を守ろうとするためです。
心理学では、過去の経験と身体の反応が結びつくことを「条件づけ」という考え方で説明することがあります。
その結果、首や肩に力が入る、呼吸が浅くなる、心臓がドキドキするなどの反応が起こる場合があります。
つまり、今感じている不安や身体の緊張には、これまでの経験が関係している可能性もあるのです。
発達特性と自律神経・身体の緊張
人は強いストレスを感じると、自律神経の働きによって、心拍数や呼吸、筋肉の緊張などが変化します。
発達特性のある方でも、感覚の負担や人間関係によるストレスが続けば、身体が緊張しやすくなる場合があります。
- 肩や首がガチガチになる
- 背中の力が抜けない
- 呼吸が浅く感じる
- 眠っても疲れが取れない
こうした状態が重なると、日常生活そのものがしんどくなります。
例えば、肩を思い切りすくめたまま呼吸してみてください。
少し呼吸がしにくく感じませんか?
今度は肩をストンと落としてみましょう。
身体の緊張が変わると、呼吸のしやすさも変化する場合があります。
当院では、こうした身体と心のつながりを大切にしています。
ただし、発達特性があるから必ず自律神経が乱れるというわけではありません。
その方が日常生活のどんな場面で疲れ、どんなときに身体が緊張するのかを確認することが大切です。
症例|孤独や不安を抱えていた40代女性
子どもの頃から続いていた生きづらさ
以前、40代の女性が来院されました。
子どもの頃から人となじむことが難しく、一人で過ごすことが多かったそうです。
周囲からは「人の話を聞いていない」「どうして時間を守れないの?」などと言われることもありました。
ご本人としては、人と話している途中で別のことが頭に浮かんだり、違うものに注意が向いたりすることがあったそうです。
また、長い間いじめられた経験もあり、人との関わりに強い不安を感じておられました。
大人になってからも仕事が続かず、孤立しているように感じる日々が続いていました。
人生の波のグラフから見えてきたこと
初回来院時は背中の緊張が非常に強く、呼吸も浅く、身体の力が抜けにくい状態でした。
私は、身体の状態だけでなく、これまでどのような思いを抱えて生きてこられたのかも知りたいと考えました。
そこで、これまでの人生を振り返る「人生の波のグラフ」を書いていただきました。
人生の中で、うれしかった時期やつらかった時期をグラフに表していくものです。
その方のグラフは、つらい時期がとても長く続いていました。
特に、いじめられていた時期の苦しさが印象的でした。
「今まで生きてきて、良いことなんてなかった」そんな思いも抱えておられました。
私は、このグラフを通じて、身体の緊張だけを見ていてはわからなかった、その方の人生の背景を知ることができました。
ここで大切なのは、無理に過去を振り返らせることではありません。
ご本人のペースを尊重しながら、今の不安や自己否定につながっている経験を整理することです。

身体と心理面の両方からアプローチ
当院では、背中や首、胸まわりなどの緊張を確認し、オステオパシーを中心としたやさしい施術を行いました。
また、これまでの経験や現在の不安についてもお話を伺い、どんな場面でつらくなるのかを一緒に整理していきました。
目指したのは、無理に性格を変えることではありません。
身体の負担をやわらげ、安心して過ごせる時間を少しずつ増やすことでした。
施術を重ねる中で、背中の緊張がやわらぎ、呼吸もしやすくなってきたとのことでした。
1年後の変化
約1年後には、週3回のお仕事に復帰されました。
以前より人との関わりが楽に感じられるようになり、笑顔も増えてこられました。
お話しされるときの姿勢や身体の状態にも、少しずつ変化が見られました。
この方の経過から、私は改めて、症状だけでなく、その方が歩んできた人生を知ることの大切さを感じました。
- 身体の緊張をやわらげること
- つらかった経験や気持ちに目を向けること
- 今の生活の中でできることを少しずつ増やしていくこと
こうした積み重ねを大切にしていきたいと思っています。
当院が大切にしていること
当院では、発達特性という診断名だけで判断するのではなく、ご本人が何に困っているのかを大切にしています。
例えば、同じように人混みが苦手でも、音がつらい方、視線が気になる方、周囲に気を使いすぎて疲れる方では、負担の原因が異なります。
そのため、まずは丁寧にお話を伺い、身体の緊張、呼吸、睡眠、疲れやすさなどを確認します。
施術では、オステオパシーの考え方を取り入れ、強く揉んだり無理な刺激を加えたりせず、その方が心地よいと感じられる範囲で身体を整えていきます。
感覚に敏感な方には、触れる強さや施術中の音、照明などへの配慮も大切です。
また、心理面や生活習慣、栄養なども必要に応じて一緒に考えます。
当院が目指すのは、無理に周囲と同じように行動できるようにすることではありません。
その方の特性を尊重しながら、身体のつらさを減らし、自分らしく過ごせる時間を増やしていくことです。
今日からできるセルフケア
音や光の刺激を少し減らす
人混みやスーパー、職場などで疲れやすい方は、周囲の刺激を少し減らしてみましょう。
音がつらい場合は、必要に応じて耳栓やイヤーマフを使う。
光がまぶしい場合は、照明の明るさを調整する。
人の多い場所で疲れる場合は、静かな場所で休憩する時間を作る。
自分に合った環境を整えることも、大切なセルフケアです。
肩をすくめて、身体の緊張を抜く
人と話した後や、身体がこわばっているときに試してみてください。
まず、椅子に座って両足を床につけます。
次に、肩を耳に近づけるように、ぎゅっと3秒ほど力を入れます。
その後、ストンと肩の力を抜きましょう。
これを2〜3回繰り返します。
ポイントは、力を抜いた瞬間の感覚を味わうことです。
ずっと緊張している方は、力が入っていること自体に気づきにくい場合があります。
まずは、緊張と脱力の違いを感じる練習から始めましょう。
疲れ切る前に休憩する
「疲れたら休もう」と思っていても、疲れに気づきにくい方もいらっしゃいます。
そんな場合は、時間を決めて休憩する方法がおすすめです。
例えば、30分作業したら5分休む。
静かな場所で目を閉じたり、軽く身体を動かしたりしてみましょう。
疲れ切ってから休むのではなく、疲れがたまりすぎる前に休むことが大切です。
「本当はどうしたい?」と自分に聞いてみる
長い間、周囲に合わせてきた方は、自分の気持ちがわかりにくくなっていることがあります。
そんなときは、簡単な質問を自分にしてみてください。
「今日は何が食べたい?」「一人で過ごしたい? 誰かと話したい?」「今、少し休みたい?」最初は答えがわからなくても大丈夫です。
大切なのは、周囲の希望だけでなく、自分の気持ちにも目を向けることです。
小さなことから、自分で選ぶ経験を増やしていきましょう。
よくある質問
- Q発達特性があると、人より疲れやすいのでしょうか?
- A
音や光への敏感さに加え、周囲に合わせようと気を使いすぎることで、疲れやすくなる方もいます。例えば、人と会った後にぐったりするのは、会話中ずっと緊張していたからかもしれません。大切なのは、自分がどんな場面で疲れるのかを知り、刺激を減らしたり、休憩を取り入れたりすることです。
- Q人と話すだけで疲れてしまうのはなぜですか?
- A
相手の表情や言葉を一生懸命読み取ろうとしたり、失敗しないように自分を監視したりすると、頭も身体も疲れやすくなります。心理学では、自分の特性を隠して周囲に合わせることを「マスキング」と呼ぶ場合があります。無理に社交的になろうとせず、安心して話せる環境や、一人で休める時間も大切にしてください。
- Q発達特性があり、身体の緊張も強いです。整体でできることはありますか?
- A
当院では、首・肩・背中の緊張や呼吸の浅さ、睡眠、疲れやすさなどに目を向けています。感覚に敏感な方には、刺激の強さや施術環境にも配慮し、オステオパシーを中心としたやさしい調整を行います。身体の緊張をやわらげることに加え、心理面や生活習慣も一緒に考え、日常生活を少しでも楽にすることを目指します。
- Q発達障害の診断がついていません。それでも相談できますか?
- A
はい。診断名の有無だけでなく、今どんなことに困っているのかを大切にしています。例えば、人といると疲れる、身体が緊張する、眠れないといったお悩みです。また、ご家族が心配していることと、ご本人が一番つらく感じていることが違う場合もあります。当院では、まずご本人のお話を丁寧に伺い、身体と心理面の両方から考えていきます。
- Q子どもの頃から生きづらさを感じています。大人になってからでも変われますか?
- A
はい。発達特性そのものを無理に変える必要はありませんが、暮らしやすさは変えていける可能性があります。例えば、過去の経験から生まれた「どうせ自分なんて」という思い込みに気づくことや、刺激の少ない環境を整えることも一つです。当院でも身体の緊張や呼吸、心理面に目を向けながら、自分らしく過ごせるようサポートしています。
まとめ
発達特性のある方の疲れや緊張には、感覚の特徴だけでなく、人間関係や過去の経験、身体の状態などが重なっていることがあります。
大切なのは、無理に周囲へ合わせることではなく、自分の特性や身体の反応を知り、過ごしやすい環境を整えることです。
当院では、身体の緊張や呼吸、心理面にも目を向けながら、自分らしく生活できるようサポートしています。

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参考文献
- 『Autism spectrum disorder in adults: diagnosis and management(CG142)』:NICE
- 『Signs of autism in adults』:NHS
- 『Attention deficit hyperactivity disorder is associated with (a)symmetric tonic neck primitive reflexes: a systematic review and meta-analysis』:Liら(2023年)




