
「お母さん、怒ってる?」
「私はどっちでもいいよ。お母さんが決めて」
「大丈夫。別に何もない」
このように、親の表情や声の変化をとても気にしたり、自分の希望より「相手がどう思うか」を先に考えたりする子どもがいます。
一見すると、やさしくて周囲に気を配れる子に見えます。
しかし、自分が嫌だと感じていても「嫌」と言えない、疲れていても「大丈夫」と答える、親を心配させないように気持ちを我慢するといった状態が続いていることもあります。
もちろん、親の顔色をうかがうことだけで不登校になるわけではありません。
学校での人間関係、学習の負担、本人の気質、睡眠や体調、家庭や学校での環境など、さまざまな要因が重なっている場合があります。
この記事では、その中でも「周囲の顔色を気にしすぎて、自分の気持ちを後回しにしてしまう」という視点から、不登校との関係や親御さんの接し方を考えていきます。
- 「お母さんを怒らせたくない」と感じていた女の子
- 親の顔色をうかがう子に見られること
- 周囲に合わせすぎる「過剰適応」という見方
- 「怒らせたくない」「嫌われたくない」が強くなる子もいます
- 「本当は嫌」と言えない子どもがいます
- 顔色をうかがい続けると、心身の余力を使いやすくなります
- 顔色をうかがう子は、SOSが見えにくいことがあります
- 「お母さんを心配させたくない」が登校のプレッシャーになることもあります
- 親はどう接したらいい?本音を言える関係を少しずつ
- 小さなことを自分で決める経験も大切です
- 「お母さんを怒らせたくない」と言われたら
- 親御さんも自分を責めすぎないでください
- 身体の不調がある場合は医療機関での確認も大切です
- 当院では体・心理・生活習慣を一緒に整理します
- よくある質問
- まとめ|「相手はどう思う?」より「私はどうしたい?」を言える関係へ
- 関連記事
- 参考文献
「お母さんを怒らせたくない」と感じていた女の子
当院に来てくれていた女の子のお話です。
※プライバシー保護のため、本人が特定されないよう背景など一部を変更しています。
とてもやさしく、人の表情や気持ちの変化に敏感な子でした。
学校でも周囲に合わせながら過ごし、家に帰ってからも、お母さんの表情や声の調子をよく気にしていました。
話を聞いていく中で、「お母さんを怒らせたくない」「お母さんのためにも学校へ行かなければ」という気持ちを抱えているように感じる場面がありました。
学校へ行くことが本人にとってしんどくなっていても、「休みたい」「行きたくない」という自分の気持ちより、「お母さんを心配させたくない」「ちゃんと学校へ行かなければ」という気持ちを優先していたのかもしれません。
もちろん、これだけを見て「親御さんが原因で不登校になった」と考えるものではありません。
学校での人間関係、勉強、先生との関係、本人の性格や気質、睡眠、体調など、さまざまなことが関係します。
大切なのは犯人を探すことではなく、「この子は今までどんなことを我慢してきたのだろう」と考えてみることです。
親の顔色をうかがう子に見られること
親や周囲の顔色を気にしやすい子には、次のような様子が見られることがあります。
- 親の表情や声の変化をよく見ている
- 「お母さん怒ってる?」と何度も確認する
- 「何がしたい?」と聞いても「どっちでもいい」と答える
- 自分の希望より「お母さんはどう思う?」を先に聞く
- 疲れていても「大丈夫」と言う
- 本当は嫌でも「いいよ」と答える
- 必要以上に謝る
- 親の機嫌が悪いと「自分のせいかもしれない」と考える
- 困っていても助けを求めない
もちろん、このような様子があるから問題があるという意味ではありません。
人への気配りができることや、相手の気持ちを考えられることは、その子の大切な長所でもあります。
気をつけたいのは、いつも相手を優先するために、自分の気持ちや疲れを後回しにしている場合です。
「私はどうしたい?」よりも「相手はどう思うだろう?」がいつも先になっていないか、少し見てあげてください。
周囲に合わせすぎる「過剰適応」という見方
心理学や教育の分野では、「過剰適応」という言葉が使われることがあります。
簡単にいうと、周囲から求められることに合わせようとするあまり、自分の感情や希望、疲れを後回しにしてしまう状態を表す考え方です。
これは病名や診断名ではありません。
例えば、
「先生に迷惑をかけてはいけない」
「友達から嫌われたくない」
「親をがっかりさせたくない」
「怒られないようにしなければ」
「期待に応えなければ」
という気持ちが強くなると、周りからはとてもよく適応しているように見えます。
ところが本人の内側では、ずっと緊張が続いていることがあります。
ただし、親の顔色をうかがう子どもがすべて過剰適応というわけではありませんし、過剰適応だから不登校になるという意味でもありません。
あくまで、その子が何に負担を感じているのかを考えるための一つの視点です。
小学校までは問題なく通えていたのに、中学生になって急に学校へ行けなくなった「優等生タイプ」のお子さんについては、こちらで詳しく解説しています。
「怒らせたくない」「嫌われたくない」が強くなる子もいます
では、なぜそこまで周囲の顔色を気にするのでしょうか。
理由は一つではありません。
もともと人の表情や声の変化に敏感な子もいますし、失敗を強く怖がる子、人に迷惑をかけることを嫌う子、周囲の期待に応えようとする子もいます。
家族の中だけではなく、学校でも、「先生が怒っている」「友達の機嫌が悪い」「自分のせいかもしれない」と必要以上に周囲の感情を引き受けてしまうことがあります。
すると、「私はどうしたい?」よりも、「相手はどう思うだろう?」を先に考えるようになります。
こうしたことが長く続くと、自分の本当の気持ちがわからなくなってしまう子もいます。
「本当は嫌」と言えない子どもがいます
大人でも、自分の気持ちを言葉にするのは難しいものです。
親や周囲の顔色を気にすることが習慣になっている子は、自分の気持ちを言葉にする前に、
「これを言ったらお母さんが困るかな」
「怒られないかな」
「心配させないかな」
と考えてしまうことがあります。
そのため、本当は嫌でも「大丈夫」と答えたり、「学校へ行きたくない」と言えないまま、頭痛、腹痛、疲れやすさなどの身体の不調が重なることもあります。
ただし、身体症状をすべて心理的な問題と考えることはできません。症状が続く場合や強い場合は、医療機関で身体の状態を確認することも大切です。
「なぜ行けないの?」と理由を求めるより、「今、一番しんどいことは何かな」「話したくなったら聞くよ」と伝える方が、本人が話しやすい場合があります。
顔色をうかがい続けると、心身の余力を使いやすくなります
私は子どもや親御さんに説明する時、その時に使える心身の余力を「心のエネルギー」と表現することがあります。
スマートフォンのバッテリーをイメージすると分かりやすいと思います。
親や周囲の顔色をいつも気にしていると、
- 相手が怒っていないか表情を確認する
- 相手を困らせない言い方を考える
- 本当は嫌でも相手に合わせる
- しんどくても「大丈夫」と答える
- 自分より相手の希望を優先する
- 相手の機嫌が悪いと自分のせいではないかと考える
といったことに、知らないうちに多くの余力を使っている場合があります。
一つひとつは小さなことでも、毎日続けば疲れがたまることがあります。
周囲からは突然学校へ行けなくなったように見えても、本人の中では、その前から長い間緊張が続いていた可能性もあります。
顔色をうかがう子は、SOSが見えにくいことがあります
周囲に気をつかう子は、困っていても自分から「助けて」と言わないことがあります。
例えば、
- 何を聞いても「大丈夫」と答える
- 「何がしたい?」と聞くと「どっちでもいい」と答える
- 自分の希望をほとんど言わない
- 小さなことで何度も謝る
- 親の表情や声の変化を気にする
- 学校の話になると急に表情が硬くなる
- 困っていても「自分でできる」と言う
といった様子が見られることがあります。
もちろん、一つ当てはまるから問題があるという意味ではありません。
ただ、以前よりこうした様子が増えているなら、「何か困っていないかな」と少し目を向けてみてください。
「大丈夫」と言っていても、人に心配をかけたくないためにそう答えている場合もあります。
無理に聞き出すのではなく、「何かあったら話していいんだ」と思える関係を残しておくことが大切です。
「お母さんを心配させたくない」が登校のプレッシャーになることもあります
不登校のお子さんの中には、「学校へ行きたくないから休んでいる」というより、「本当は行かなければいけないと思っているのに身体が動かない」という子もいます。
特に周囲に気をつかう子では、
「休んだらお母さんが心配する」
「迷惑をかけたくない」
「がっかりさせたくない」
という気持ちが、本人自身へのプレッシャーになっていることがあります。
そのような時に「明日は行けそう?」「そろそろ行かないと」と繰り返し確認すると、本人がすでに自分にかけているプレッシャーをさらに強めてしまう場合があります。
登校できたかどうかだけではなく、「今日は少し話せた」「食事ができた」「自分の希望を言えた」といった変化にも目を向けてみてください。
親はどう接したらいい?本音を言える関係を少しずつ
親の顔色をうかがう子にとって大切なのは、すぐに正しい答えを出すことよりも、「親と違うことを言っても大丈夫」と感じられる関係です。
「学校へ行く?行かない?」という大きな問題だけではなく、普段の生活の中で少しずつ本音を言える経験を増やしていきます。
まず家庭を、学校以外の話もできる場所にしてあげてください。
食事の話、テレビ、ゲーム、好きな音楽、ペット、今日あった出来事など、普通の会話があっていいのです。
そして本人が話し始めた時には、すぐに答えを出そうとせず、一度聞いてあげてください。
「そんなこと気にしなくていい」「考えすぎやで」と否定するより、「そう感じてたんやね」「ずっとしんどかったんやね」と受け止めてもらえる方が、自分の気持ちを話しやすくなることがあります。
小さなことを自分で決める経験も大切です
周囲に合わせることが当たり前になっている子は、「自分がどうしたいか」を考えることが苦手になっている場合があります。
そのような時には、大きな進路の話から始めなくても構いません。
「今日は何を食べたい?」「散歩に行く?家にいる?」「今話す?あとで話す?」といった小さなことから、自分で選ぶ経験を増やしてみてください。
すべて子どもの言う通りにするという意味ではありません。
自分の気持ちを感じ、それを言葉にしても大丈夫だと思える経験を少しずつ増やすということです。
「お母さんを怒らせたくない」と言われたら
もし子どもから、「お母さんを怒らせたくない」と言われたら、親御さんはショックを受けるかもしれません。
「そんなに怒ってないよ」「あなたのためを思って言っているのに」と言いたくなるかもしれません。
でも最初は、「そんなに気をつかってたんやね」「そう思ってたんやね」と受け止めるところからでいいと思います。
これは「親が悪かった」と認めるという意味ではありません。
子どもがそう感じていたという事実を、一度そのまま受け止めるということです。
親子関係は、これからも変えていけます。
「嫌な時には嫌と言っていい」「困ったら助けてと言っていい」「お母さんと違う意見でも大丈夫」そんな経験を家庭の中で少しずつ増やしていけばいいと思います。
親御さんも自分を責めすぎないでください
子どもが不登校になると、「私の育て方が悪かったのではないか」「怒りすぎたから?」「もっと早く気づいていれば」と、自分を責める親御さんがおられます。
でも、不登校は家庭だけで説明できるものではありません。
学校環境、人間関係、勉強、本人の気質、発達特性、睡眠、身体の状態など、さまざまなことが関係します。
「誰が悪かったのか」を探すより、「これからこの子が安心して生活するために何ができるだろう」と考えていく方が大切です。
そして親御さん自身にも生活があります。
子どもが学校を休んでいるからといって、親御さんまで笑ってはいけないわけではありません。
自分の仕事や趣味、友人との時間をすべてやめる必要もありません。
親御さん自身が疲れ切らないことも、長く子どもを支えていくためには大切です。
身体の不調がある場合は医療機関での確認も大切です
不登校のお子さんでは、頭痛、腹痛、めまい、吐き気、朝起きられない、強い疲労感などの身体症状が重なっていることがあります。
「ストレスだろう」「学校へ行きたくないからだろう」と最初から決めつけず、症状が続く場合や強い場合は、小児科などの医療機関へ相談してください。朝起きられない、立つとめまいがする、動悸がするなどの場合には、起立性調節障害などについて確認が必要なこともあります。
当院では体・心理・生活習慣を一緒に整理します
当院では、「整体で不登校を治す」という考え方はしていません。
同じ不登校でも、背景は一人ひとり違うからです。
身体が緊張している子もいれば、睡眠が乱れている子、不安が強い子、周囲の顔色を気にし続けている子もいます。
そのため当院では、身体へのやさしい施術だけでなく、
- 身体の緊張や呼吸
- 睡眠や生活リズム
- 普段の食事内容や食事量
- 不安や緊張
- 学校で負担になっていること
- 家庭でどのように過ごしているか
- 本人が周囲に気をつかいすぎていないか
なども一緒に整理していきます。
特にこの記事のようなお子さんでは、「この子は何を我慢しているのだろう」「自分の希望を言えているだろうか」という心理面も大切にしています。
整体で不登校そのものを治療したり、原因を診断したりすることはできません。
医療的な確認が必要と考えられる症状がある場合には、小児科などへの相談も大切です。
学校へ行けたかだけではなく、眠れるようになった、食べられるようになった、自分の気持ちを話せた、笑顔が増えたといった変化も見ながら、その子に合ったサポートを考えていきます。
よくある質問
- Q親の顔色をうかがうのは、親の育て方が原因ですか?
- A
親の育て方だけで説明することはできません。本人の気質や人との関わり方、学校での経験、環境など、さまざまなことが関係します。
「誰のせいか」を探すよりも、これから家庭の中で「嫌と言っても大丈夫」「親と違う意見でも大丈夫」と感じられる関係を作っていくことが大切です。
- Q何を聞いても「大丈夫」「どっちでもいい」と答えます。どう接したらいいですか?
- A
すぐに本音を言わせようとしなくても大丈夫です。「何がしたい?」では答えにくい場合は、「今日は家にいる?少し散歩する?」「今話す?あとで話す?」など、小さな選択から本人が決める経験を増やしてみてください。
「あなたの考えを言っても大丈夫」と感じられる関係を少しずつ作ることが大切です。
- Q「お母さんを怒らせたくない」と言われました。どう返せばいいですか?
- A
まず「そんなことない」と否定せず、「そんなに気をつかってたんやね」と一度受け止めてみてください。親御さんを責めるためではありません。その子がどう感じていたのかを知り、これから本音を言いやすい関係を作るきっかけにしてください。
- Qこのような不登校の子どもが家にいる場合、親はどう接したらいいですか?
- A
登校を急がせるより、まず安心して過ごせる環境を作ることを大切にしてください。学校以外の会話も続け、本人が話した時は否定せず聞いてあげてください。親御さんだけで抱え込まず、必要に応じて学校、スクールカウンセラー、医療機関などとも連携してください。
まとめ|「相手はどう思う?」より「私はどうしたい?」を言える関係へ
親の顔色をうかがう子どもは、とてもやさしく、周囲への気配りができる子でもあります。
その一方で、
- 怒らせたくない
- 心配させたくない
- 嫌われたくない
- 迷惑をかけたくない
という気持ちが強く、自分の本音や疲れを後回しにしていることがあります。
もちろん、親の顔色をうかがうことが不登校の原因だと決めつけることはできません。
不登校には、学校環境、人間関係、学習、本人の気質、睡眠や体調など、さまざまな背景が関係します。
大切なのは、「誰が悪かったのか」を探すことではありません。
「この子は何を我慢してきたのだろう」
「本当はどうしたかったのだろう」
と一緒に考えてみることです。
「嫌な時には嫌と言っていい」
「困ったら助けてと言っていい」
「お母さんと違う考えでも大丈夫」
そんな経験を少しずつ増やすことで、自分の気持ちを言葉にしやすくなる子もいます。
学校へ行くことだけを急がず、「私はこうしたい」と安心して言える関係を少しずつ作っていきましょう。

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参考文献
- 文部科学省『生徒指導提要(改訂版)』第10章 不登校
- 文部科学省『令和6年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果及びこれを踏まえた対応の充実について』
- 『不登校は99%解決する』森田直樹
- 『嫌われる勇気』岸見一郎・古賀史健
- 『自己肯定感の教科書』中島輝




