
「朝は普通に起きていたのに、学校へ行く時間になると熱が出る」
「学校を休むことが決まると、少し元気になる」
「病院で調べても大きな異常はないのに、登校する日の朝になると体調が悪くなる」
このような状態が続くと、親御さんも心配になると思います。
中には、「本当に熱があるの?」「学校へ行きたくないから熱が出ているの?」「もしかして仮病なの?」と戸惑う方もおられるかもしれません。
しかし、強い不安や緊張が続いた時に、頭痛、腹痛、吐き気、動悸などの身体症状が出ることは珍しいことではありません。心理社会的なストレスに伴って体温が上がる現象についても研究されており、子どもでも報告されています。
だからといって、「熱は全部ストレスのせい」と考えてよいわけではありません。
発熱には感染症をはじめさまざまな原因がありますので、繰り返す場合や症状が強い場合には、まず小児科などで身体の病気がないか確認することが大切です。
そのうえで、「学校へ行く時間になると繰り返し体調が悪くなる」という場合には、その子が学校に対してどのような不安や緊張を感じているのかも、一緒に考えてみてほしいと思います。
当院に来てくれていた中学2年生の男の子
当院に来てくれていた中学2年生の男の子のお話です。
※プライバシー保護のため、本人が特定されないよう一部を変更しています。
この男の子は、テストの成績についてお母さんから強く叱られた翌日から、学校へ行けなくなりました。
本人は「学校が怖くなった」と話していました。
さらに、学校へ行く時間になると熱が出ることもありました。
もちろん、「お母さんに叱られたから不登校になった」と単純に決めつけることはできません。
それ以前から勉強へのプレッシャーがあったのかもしれませんし、学校生活の中で緊張や疲れが積み重なっていた可能性もあります。
強く叱られた出来事が、それまで抱えていたものが表に出る一つのきっかけになった可能性もあります。
不登校では、一つの出来事だけを見て「これが原因だ」と決めるより、その前から何が重なっていたのかを見ることが大切です。
文部科学省でも、不登校は心理的・情緒的・身体的・社会的な要因や背景によって、登校しない、あるいは登校したくてもできない状態とされています。
では、なぜ「学校が怖い」と感じるようになると、実際に熱まで出ることがあるのでしょうか。
なぜ学校へ行く時間になると熱が出るのでしょうか
ここは少し心理学の話をします。
ただ、難しく考える必要はありません。
私たちの脳には、一度「危険だった」「怖かった」と感じた経験を覚えて、次に同じような状況が起こった時に、早めに身を守ろうとする仕組みがあります。
これは本来、私たちを守るために必要な反応です。
「学校」と「怖い」が結びつくことがあります
心理学には「古典的条件づけ」という言葉があります。
難しく聞こえますが、簡単にいうと、「ある出来事と、怖かった時の感覚がセットで記憶される」ということです。
有名なのがパブロフの犬の実験です。
食べ物と一緒にベルの音を聞かせることを繰り返すと、やがてベルを聞いただけで唾液が出るようになりました。
人間にも似た学習の仕組みがあります。
例えば、学校や勉強に関係した場面で強い恐怖や緊張を経験した時、その後、
- 朝の登校時間
- 制服
- 学校のカバン
- 「今日、学校どうする?」という言葉
- テスト
- 教室
- 通学路
などが、怖かった時の感覚を思い出させるきっかけになることがあります。
本人が頭の中で「学校は危険だ」と意識的に考えているとは限りません。
「明日は普通に学校へ行こう」と思っていても、登校時間が近づくと心臓がドキドキしたり、お腹が痛くなったり、身体が動かなくなったりすることがあります。
条件づけられた恐怖によって、実際に心拍や呼吸、体温など身体の反応が起こることも研究されています。
まだ何も起きていないのに身体が反応する「予期不安」
もう一つ知ってほしい言葉が「予期不安」です。
これは、「また嫌なことが起こったらどうしよう」と、まだ起きていないことに対して不安になることです。
例えば、
「またテストのことで怒られるかもしれない」
「先生に何か言われたらどうしよう」
「友達に休んでいた理由を聞かれたら嫌だ」
「教室に入れなかったらどうしよう」
と考えるだけでも、身体は緊張します。
さらに本人が、「また熱が出るかもしれない」と心配するようになると、今度は体調そのものへの不安も加わります。
つまり、
学校を考える
↓
不安になる
↓
身体が緊張する
↓
熱や腹痛などが出る
↓
「やっぱり学校へ行くと具合が悪くなる」と感じる
↓
さらに学校が怖くなる
という循環ができる場合があります。
これは、本人がわざとやっているわけではありません。
不安を感じると身体は「危険に備えるモード」になります
強い不安や恐怖を感じると、身体は危険に備えるための反応を起こします。
心理学や生理学では「闘争・逃走反応(fight or flight response)」と呼ばれるものです。
交感神経などが働き、
- 心拍が速くなる
- 呼吸が速くなる
- 筋肉に力が入る
- 汗をかく
- 胃腸の働きが変化する
- 身体が熱く感じる
といった変化が起こります。
本当に危険な場所から逃げる時には、とても役に立つ反応です。
しかし、相手が「学校への不安」の場合、走って逃げる必要はありません。
それでも身体は、あたかも危険が迫っているかのように反応してしまうことがあります。
ストレスによって実際に体温が上がることがあります
ここが「だから熱が出ることがあるのか」という部分です。
心理的ストレスに伴って体温が上昇する現象は研究されており、以前から「心因性発熱」と呼ばれてきました。
近年では、感染症などによる炎症性の発熱とは仕組みが異なることから、「機能性高体温」という表現を提案する研究者もいます。心理的ストレスに伴う体温上昇には、脳や交感神経などが関わると考えられています。
つまり、「学校へ行きたくないから、熱があるふりをしている」のではなく、
強い不安や恐怖
↓
身体が危険に備える
↓
自律神経など身体の反応が変化する
↓
その一つとして体温が上がる場合がある
ということです。
ただし、この仕組みだけで子どもの発熱を判断することはできません。
岡山大学病院の小児心身医療の報告でも、心理社会的ストレスに関連する発熱を考える際には、身体疾患との鑑別が重要とされています。
ですので「不登校だから熱もストレスだろう」と最初から決めつけないことが大切です。
発熱だけではありません|登校前に出ることがある身体のサイン
不安や緊張が身体に出るのは、熱だけではありません。
私自身にも経験があります。
子どもの頃、私は笛のテストが苦手でした。
普段は普通に過ごしているのに、笛のテストが近づくとお腹が痛くなることがありました。
今振り返れば、「テストが嫌だ」「失敗したらどうしよう」という緊張が身体に出ていたのだと思います。
もちろん、私の場合は不登校になるほどではありませんでした。
しかし大人でも、大切な仕事の前になるとお腹が痛くなったり、人前で話す前にトイレへ行きたくなったり、緊張すると心臓がドキドキしたりすることがあります。
子どもも同じです。
ただ、子どもは大人のように、「最近かなり精神的なストレスが続いていて、学校へ行くことを考えると不安が強くなります」とは説明してくれません。
本人自身も、なぜ身体がしんどいのかわからないことがあります。
そのため不安や緊張が、
- 腹痛
- 頭痛
- 吐き気
- 下痢
- めまい
- 動悸
- 息苦しさ
- 食欲低下
- 強いだるさ
- 朝起きられない
- 発熱
などの身体症状として表に出ることがあります。
心理的な負担が身体症状として現れることを「身体化」と表現することもあります。
ここで大切なのは、「身体に異常がない=気のせい」という意味ではないことです。
お腹が痛ければ、本人にとっては本当に痛い。
頭が痛ければ、本当に痛い。
熱が上がっていれば、実際に身体で変化が起きています。
「学校へ行きたくないから大げさに言っている」と決めつけないでほしいと思います。
学校を休むと元気になるのは仮病なのでしょうか?
親御さんが特に戸惑うのが、「朝はあんなにしんどそうだったのに、学校を休むと決まったらゲームをしている」「熱があったのに、昼になると元気になった」というケースです。
これを見ると、「やっぱり学校を休みたかっただけなのでは?」と思うかもしれません。
しかし、これだけでは仮病とは判断できません。
例えば「学校へ行かなければならない」という緊張が強かった子が、「今日は休んでいい」とわかった瞬間、強い緊張から解放されることがあります。
危険だと感じていたものが遠ざかれば、身体の警戒反応も弱くなる可能性があります。
心理学には「負の強化」という言葉があります。
これも名前は難しいのですが、「嫌なものから離れたら楽になったので、次も離れたくなる」という学習です。
学校へ行く
↓
怖い・苦しい
学校を休む
↓
怖さが減る
という経験が続くと、「学校から離れると安心できる」という学習が強くなることがあります。
ただし、だからといって「休ませるから不登校が長引く。無理に行かせた方がいい」という話ではありません。
すでに強い恐怖反応が起きている子を無理に連れていけば、さらに「学校=怖い」という経験を強めてしまう可能性もあります。
まずは何が怖いのか、何に困っているのかを整理し、学校とも相談しながら、その子が安心できる方法を考えていくことが大切です。
「学校が怖い」と言われた時に親御さんができること
子どもから「学校が怖い」と言われると、親御さんも驚くと思います。
「何があったの?」
「誰かに何かされたの?」
「先生?」
「友達?」
「いつから?」
と詳しく聞きたくなると思います。
もちろん、いじめなど安全に関わる問題が隠れていないか確認することは大切です。
ただ、本人自身も理由が整理できていない時に質問を続けると、子どもがさらに追い詰められてしまう場合があります。
まずは、「学校が怖いんやね」「しんどかったんやね」「今すぐ全部話さなくてもいいよ」くらいからでもいいと思います。
文部科学省の不登校に関する議論でも、不登校の渦中では本人自身が理由をうまく言葉にできないケースがあり、原因を一方向から決めつけず多面的に見る必要性が指摘されています。
親御さんも「私が叱ったせいだ」と自分を責めすぎないでください
今回紹介した男の子のように、強く叱られたあとから学校へ行けなくなると、「私があの時怒ったからだ」と親御さんが自分を責めてしまうことがあります。
でも、不登校を一つの出来事だけで説明することはできません。
- その子がそれまでどれくらい頑張っていたのか
- 勉強についてどのように感じていたのか
- 学校で何か困っていなかったか
- 睡眠はとれていたか
- 友達や先生との関係はどうだったか
- 家庭でも気をつかっていなかったか
さまざまなことが重なった結果として、ある出来事をきっかけに表面化する場合もあります。
大切なのは、「誰が悪かったのか」という犯人探しをすることではありません。
「この子はいま、何が怖いのだろう」「何が一番負担になっているのだろう」「どうしたら少し安心できるだろう」と、これからの関わりを一緒に考えることだと思っています。
学校へ行けたかどうかだけで判断しないでください
不登校になると、どうしても、「今日は学校へ行けた」「今日はまた行けなかった」ということばかりに目が向きます。
しかし、その子の変化は登校だけではありません。
例えば、
- 前より眠れるようになった
- 朝ご飯を食べられるようになった
- 家族と話すようになった
- 笑顔が増えた
- 好きなことを楽しめるようになった
- 外へ出られるようになった
- 自分の気持ちを話せるようになった
こうした変化も大切です。
文部科学省の『生徒指導提要』でも、不登校支援について、学校に登校するという結果だけを目標にするのではなく、本人の社会的自立を見据えて支援することが重要とされています。
「明日は学校へ行ける?」と毎日確認することより、まずその子の心と身体に少し余力が戻ってきているかを見てあげてください。
発熱がある時は「心の問題」と決めつけないことも大切です
ここはとても大切なので、もう一度お伝えします。
学校へ行く時間に熱が出るからといって、すべてが心理的なものとは限りません。
特に、
- 発熱が長く続いている
- 高い熱が出ている
- 強い頭痛や腹痛がある
- 咳やのどの痛みなど他の症状がある
- 水分や食事が十分とれない
- 体重が減ってきた
- ぐったりしている
- いつもと明らかに様子が違う
などの場合は、小児科など医療機関へ相談してください。
また、朝起きられない、立ちくらみ、めまい、頭痛、動悸、強いだるさなどが続く場合には、起立性調節障害など身体の状態を確認する必要があるケースもあります。
「不登校だから心の問題」「検査で異常がなかったから全部気持ちの問題」と決めつけず、身体と心理の両方から見ていくことが大切です。
当院では「学校へ行かせること」だけを目的にしていません
当院では「整体で不登校を治す」という考え方はしていません。
不登校のお子さんを見ていると、学校への不安だけではなく、身体の緊張、浅い呼吸、睡眠不足、朝起きられない、食欲低下、腹痛、頭痛など、いくつもの問題が重なっていることがあります。
そのため当院では、
- 身体の緊張
- 呼吸
- 睡眠
- 食事
- 生活リズム
- 身体の不調
- 不安や緊張
- 学校や家庭での負担
などを一緒に確認していきます。
最初から「どうやったら明日学校へ行けるか」だけを考えるのではなく、「この子は今、何に困っているのだろう」というところから考えることを大切にしています。
- 身体が少し楽になった
- 眠れるようになった
- 家族と話せるようになった
- 好きなことを楽しめるようになった
そうした変化を積み重ねた先に、本人が「少し動いてみようかな」と思えることもあります。
学校へ戻ることを希望する子もいれば、別室登校や短時間登校、教育支援センターなど別の方法が合う子もいます。
その子にとって何がよいのかを、一緒に考えていくことが大切だと思っています。
よくある質問
- Q学校へ行く時だけ熱が出るのは仮病ですか?
- A
学校を休むと熱や体調が落ち着いたからといって、仮病とは限りません。強い不安や緊張によって身体症状が出ることがあります。ただし発熱にはさまざまな原因があるため、繰り返す場合は小児科などで確認してください。
- Q「学校が怖い」と言われたら、休ませてもいいのでしょうか?
- A
状況によって異なりますが、無理に登校させることだけを優先するより、まず本人が何を怖いと感じているのか、身体症状がないかを確認することが大切です。学校や専門家とも相談しながら考えてください。
- Q親が叱ったことが不登校の原因なのでしょうか?
- A
一度叱った出来事だけで不登校の原因を説明することはできません。それ以前から勉強、人間関係、疲労、睡眠、不安などが重なっていた可能性もあります。「誰が悪いか」より、今何に困っているかを見ることが大切です。
- Q熱が続く場合は何科へ行けばいいですか?
- A
まず小児科などで身体的な原因がないか確認してください。必要に応じて、医師から児童精神科や心療内科などを紹介されることもあります。
- Qこのような不登校の子どもが家にいる場合、親はどのように関わればいいですか?
- A
まず「明日は学校へ行ける?」と登校を急がせるより、安心して過ごせる環境を作ることを大切にしてください。睡眠や食事、体調を見ながら、学校以外の会話や好きなことを一緒に楽しむのもよいと思います。理由を無理に聞き出さず、本人が話した時には否定せず聞いてあげてください。親御さんだけで抱え込まず、学校や医療機関などと連携することも大切です。
まとめ
- 学校へ行く時間になると熱が出る
- お腹が痛くなる
- 吐き気がする
- 身体が動かなくなる
このような反応を見ると、「学校へ行きたくないからでは?」と思ってしまうかもしれません。
しかし、強い恐怖や不安を経験すると、その時に関係していた学校や登校時間などと怖さが結びつき、本人の意思とは関係なく身体が反応することがあります。
心理学では「古典的条件づけ」や「予期不安」といった仕組みが関係する場合があります。
そして強いストレスによって身体が危険に備える状態になることで、心拍や呼吸、胃腸の働きだけでなく、体温にも変化が起こることがあります。
だからこそ、「仮病でしょう」「気持ちの問題でしょう」「みんな学校へ行っているよ」と片づける前に、「この子の身体は、なぜここまで学校を怖がっているのだろう」と考えてみてください。
同時に、発熱などの身体症状がある場合には、必要な医療機関で身体の状態を確認することも忘れないでください。
不登校では「どうやって学校へ行かせるか」を最初に考えるより、「この子の場合は、何が負担になっているのだろう」と一人ひとりを見ていくことが大切だと思っています。

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参考文献
- 文部科学省『生徒指導提要(改訂版)』
- 文部科学省『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査―用語の解説』
- Oka T. Psychogenic fever: how psychological stress affects body temperature in the clinical population. Temperature. 2015
- Okada A, et al. Psychogenic fever and neurodevelopmental disorders among Japanese children. BioPsychoSocial Medicine. 2024
- 『不登校は99%解決する』森田直樹




