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大人の自閉スペクトラム症(ASD)で生きづらい方へ|40代女性の相談例と生活を楽にするヒント

大人の自閉スペクトラム症(ASD)の生きづらさや人間関係、感覚の敏感さを解説するイメージ

「子どもの頃から人間関係がうまくいかず、つらい思いをしてきました」
「周りの人とうまく合わせられず、自分はこの先ちゃんと生きていけるのか不安です」
「精神科にも通っていますが、身体もしんどくて、もう少し楽に生活できるようになりたいです」

これは、当院に相談に来られた40代女性のお話です。

この方は自閉スペクトラム症(ASD)と診断されており、統合失調症についても精神科で治療を受けていました。

ASDがあるからといって、すべての人が同じことで困るわけではありません。仕事を続けている方もいれば、人間関係に疲れやすい方、音や光などの刺激に敏感な方、予定が変わることに強いストレスを感じる方もいます。

大切なのは「ASDだからできない」と考えることではなく、その人が何を苦手としていて、どのような環境なら力を発揮しやすいのかを知ることです。

この記事では、大人の自閉スペクトラム症(ASD)の特徴、生活を少し楽にするための工夫、そして当院に来られた40代女性の相談例について紹介します。

自閉スペクトラム症(ASD)とは

自閉スペクトラム症は、ASD(Autism Spectrum Disorder)とも呼ばれる神経発達症の一つです。

以前は「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」などと分けて呼ばれていましたが、現在は自閉スペクトラム症という大きな枠組みで考えられるようになっています。

主な特徴として、

  • 人とのコミュニケーションや対人関係で難しさを感じる
  • 興味や行動に一定のパターンがある
  • 急な予定変更などに強いストレスを感じる
  • 音、光、匂い、触覚などに敏感または鈍感なことがある
  • 特定の分野に強い興味や集中力を示すことがある

などがあります。

ただし、これらすべてが全員に当てはまるわけではありません。

知的能力についても非常に幅があり、知的障害を伴う方もいれば、平均的あるいは高い知的能力を持つ方もいます。

「スペクトラム」という言葉が使われているのも、その現れ方が一人ひとり大きく違うからです。

大人になって突然ASDになるわけではありません

「大人になってからASDになったのでしょうか?」という質問を受けることがあります。

ASDの特性そのものは基本的に発達の早い段階から存在します。ただ、子どもの頃には大きな問題にならず、大人になって仕事や人間関係が複雑になったことで困りごとが目立ち、そこで初めて診断につながる場合があります。

学生時代までは周囲がフォローしてくれていても、社会人になると、

  • 自分で優先順位を決める
  • 曖昧な指示を理解する
  • 相手の意図を推測する
  • 急な予定変更に対応する
  • 複数の仕事を同時に進める

といったことを求められる場面が増えます。

そこで初めて「どうして自分だけこんなに疲れるのだろう」と感じる方もいます。

ASDの方が生活の中で困りやすいこと

人とのコミュニケーション

ASDの方の中には、相手が言葉にしていない気持ちや意図を読み取ることを難しく感じる方がいます。

例えば職場で、

「もう少し早めにやっておいて」

「適当にまとめておいて」

「いい感じにしておいて」

と言われても、「具体的にいつまで?」「どのくらい?」「何をすれば完成?」と迷ってしまうことがあります。

これは「やる気がない」「気が利かない」という単純な問題ではありません。

「17時までに、この3項目を入力してください」のように具体的に伝えた方が分かりやすい場合があります。

予定が変わると強いストレスを感じる

いつもと同じ手順や予定であれば落ち着いてできるのに、突然予定が変更されると強く動揺してしまう方もいます。

厚生労働省の資料でも、見通しが立たない状況では不安が強くなりやすい一方、見通しが立つときにはきっちり取り組めることがASDの特性の一例として紹介されています。

ですから周囲の人は、

  • 予定をできるだけ事前に伝える
  • 変更がある場合は早めに伝える
  • やることを順番に示す
  • 曖昧な指示を減らす

といった工夫をすると、本人の負担を減らせる可能性があります。

音・光・匂いなどに敏感なことがある

ASDの方には感覚の受け取り方に違いがみられる場合があります。

例えば、

  • 人混みのざわざわした音がつらい
  • 蛍光灯の光がまぶしく感じる
  • 特定の匂いが苦手
  • 洋服のタグや締め付けが気になる
  • 人に触られることが苦手

などです。

周囲には何でもない刺激でも、本人にとっては大きなストレスになっていることがあります。

我慢させることだけを考えるのではなく、「何がつらいのか」を一緒に探すことも大切だと思います。

本人の困りごとと、周囲から見える困りごとは違うことがあります

これは実際に相談を受けていて、とても大切だと感じる部分です。

家族や職場の人は、

  • コミュニケーションがうまくいかない
  • 空気を読んでほしい
  • 同じことにこだわってしまう
  • 急な変更に対応してほしい

といった「社会生活上の問題」に目が向きやすくなります。

一方、本人は、

  • 人と接するだけで非常に疲れる
  • 音や光がつらい
  • 頭痛がする
  • 肩や身体に力が入り続ける
  • お腹の調子が悪い
  • 夜になっても緊張が抜けず眠れない

といった身体的なつらさを強く感じていることがあります。

もちろん、頭痛や胃腸症状、不眠などがすべてASDによって起こるという意味ではありません。

症状が続く場合には、必要に応じて医療機関で身体的な原因を確認することも大切です。

そのうえで、毎日の緊張や感覚刺激、人間関係のストレスなどが身体の負担を増やしていないかを見ることも一つの視点になります。

ASDと不安・うつなどが重なることもあります

ASDそのものと、不安症、うつ病、ADHD、統合失調症などは同じものではありません。

ただしASDのある方が、別の精神的・身体的な問題を併せて抱えることはあります。

人との関係で何度も失敗したり、「なんで普通にできないの」と注意され続けたりすると、自信を失ってしまうこともあるでしょう。

だからこそ、「ASDだから全部仕方がない」でも、「もっと頑張れば普通にできる」でもありません。

本人の特性を理解したうえで、困っている部分に合わせて支援することが大切です。

精神科や心療内科で治療を受けている場合には、自己判断で薬を中止せず、主治医と相談しながら治療を続けてください。

ASDの中核的な特性そのものを薬でなくすことを目的とした治療は現在一般的ではありませんが、不安、うつ、ADHD、睡眠の問題、統合失調症など併存する状態に対して薬が使われることはあります。

嫌な記憶が何度も浮かんでくるとき

今回相談された女性は、過去にいじめられた経験など、嫌な出来事を繰り返し思い出してしまうことがありました。

このようなとき、「忘れよう」「考えないようにしよう」と頑張るほど、逆にそのことばかり気になってしまう場合があります。

私は心理的なサポートの中で、その考えや感情と少し距離を取って見る方法を使うことがあります。

例えば、「また嫌な記憶が出てきた」ではなく、「今、自分の頭の中に嫌な記憶が浮かんできているんだな」と少し離れたところから眺めてみます。

紙に書き出したり、安心して話せる人に言葉で伝えたりすることもあります。

大切なのは「嫌な記憶を消す」ことではありません。

嫌な記憶が浮かんできたときに、それにすべて巻き込まれない練習をしていくことです。

なお、強いトラウマ体験がある場合や、フラッシュバック、自傷したい気持ち、強い不安などがある場合には、一人で無理に過去を掘り返さず、精神科・心療内科や心理職など専門家に相談してください。

ASDの方へのサポートで大切なこと

私が一番大切だと思っているのは、「本人を変えようとすること」から始めないことです。

まず、その人が何に困っているのかを知ることです。

曖昧な言葉を減らす

「ちゃんとして」「早めにやって」「普通にして」では分かりにくい場合があります。

できるだけ、「15時までに、この書類を3枚入力してください」のように具体的に伝える方が理解しやすくなります。

一度にたくさん伝えない

複数の指示を一度に伝えるより、一つずつ順番に伝えた方が取り組みやすい方もいます。

口頭だけでは分かりにくければ、メモや予定表などを使う方法もあります。

苦手だけでなく得意なことを見る

ASDの方は苦手なところばかり注目されてしまうことがあります。

しかし、

  • 一つのことに集中できる
  • 決められた手順を正確に続けられる
  • 特定の分野について非常に詳しい
  • 細かな違いに気づく
  • 自分が興味を持ったことを深く追究できる

などが強みになる方もいます。

「ASDならこの仕事が向いている」と職種だけで決めることはできません。

仕事内容、職場環境、人間関係、本人の得意不得意を組み合わせて考えることが大切です。

40代ASD女性の相談例

当院に来られている40代女性のお話です。個人が特定されないよう、内容を一部整理して紹介します。

この方は事務関係のお仕事をされていました。

決められた書類を処理するような仕事には非常に丁寧に取り組むことができ、仕事を続けておられました。

一方で、周囲とのコミュニケーションのズレや人間関係によるストレスが重なると、肩こり、頭痛、吐き気、眠りにくさなど身体の不調を強く感じることがありました。

初めてお越しになった頃は、「これから先、自分はうまく生きていけるのだろうか」という不安も強く、自分に対して否定的な言葉を使うことも多かったのを覚えています。

そこで私は、身体の状態だけを見るのではなく、「今一番困っていることは何か」「どんなときにしんどくなるのか」「逆に何をしているときは楽なのか」と話を聞くことを大切にしました。

当院で大切にしている身体からのサポート

ASDそのものを整体で変えるという考えではありません。

当院では、肩や背中の緊張、頭痛、身体の疲れ、呼吸のしづらさ、睡眠など、その方が実際に困っている身体の状態を確認しながら施術を行っています。

常に身体に力が入っている方の場合、本人は「力を抜いてください」と言われても、どうやって抜けばいいのか分からないことがあります。

そのため、まず身体に触れながら緊張が少ない状態を感じてもらい、「ここまで力を抜いても大丈夫なんだ」という感覚を少しずつ経験していただきます。

この女性も施術を続ける中で、「呼吸が楽になった」「前より眠れるようになった」「以前より笑えるようになった」と話してくださることが増えていきました。

これはあくまでもこの方の経過であり、すべてのASDの方に同じ変化が起こるという意味ではありません。

ただ、身体がつらい状態のまま心だけに「前向きになりましょう」と言っても難しいことがあります。

身体を休ませること、睡眠を確保すること、食事を整えること、適度に身体を動かすこと。そして自分を責め過ぎないこと。

こうした土台を一つずつ整えることは大切だと考えています。

原始反射については一つの評価として考えています

当院では身体の動きや姿勢、左右差などを見る際に、必要に応じて原始反射に関連した身体反応を確認することがあります。

ただし、原始反射が残っていることだけでASDを説明したり、「原始反射を統合すればASDが改善する」と考えているわけではありません。

あくまで、

  • 身体を動かしにくいところはないか
  • バランスを取りにくくないか
  • 特定の動きに強い緊張が出ないか
  • 本人が苦手としている動作は何か

などを見るための一つの視点として利用しています。

身体の動かしにくさがある場合には、その方に合わせて無理のない運動や身体への刺激を取り入れることがあります。

ピクピクする・引きつるなどの症状がある場合

今回の女性には、顔や目の周囲がピクピクする、手を動かしにくいといった訴えもありました。

このような症状を「ASDだから」「ストレスだから」と決めつけることはできません。

顔や手足の不随意運動、筋肉の引きつり、まぶたが下がる、動かしにくいなどの症状には、神経や筋肉の病気、薬の影響、電解質の異常などさまざまな原因があります。

新しく症状が出た場合、急に悪化した場合、左右差が強い場合、力が入りにくい場合などは、まず医療機関で確認することが大切です。

そのうえで、緊張したときに症状が強くなる、疲労や睡眠不足で増えるなどの傾向があれば、生活面や身体の緊張について考えていくこともできます。

チックについては、別の記事でも詳しく解説しています。

「違うこと」と「劣っていること」は同じではない

私が以前読んだ『動物感覚』の著者、テンプル・グランディンさんも自閉症当事者として知られています。

彼女は動物科学の分野で研究を続け、自分が人とは違った方法で物事を捉えることを、一つの強みとして活かしてきました。

私はここに、とても大切なヒントがあると思っています。

周りと同じようにできないことがあっても、それだけでその人の価値が決まるわけではありません。

苦手なところを何とか平均に近づけようとすることだけではなく、「この人は何ならできるのだろう」「どんな環境なら力を発揮できるのだろう」と考えることも大切です。

これは本人だけではなく、ご家族や職場など周囲の方にも知っていただきたいことです。

まとめ|ASDの特性を知ることは、自分を責めないための第一歩

自閉スペクトラム症(ASD)は、一人ひとり特性の現れ方が大きく違います。

人付き合いが苦手な方もいれば、感覚過敏が一番つらい方、急な予定変更が苦手な方、身体の緊張や疲労を強く感じる方もいます。

大切なのは「普通にならなければ」と自分を追い込むことではありません。

自分が苦手なことを知り、得意なことを知り、生活しやすい環境をつくっていくことです。

当院では、ASDそのものを診断したり治療したりするのではなく、肩こりや頭痛、身体の緊張、睡眠などの身体的なつらさを抱えている方に対して、その方の状態に合わせた身体からのサポートを行っています。

また、生活習慣や運動、食事、人間関係やストレスについても一緒に整理していきます。

「ずっと生きづらかった」「周りとうまくいかない自分が嫌だった」という方も、自分の特性が分かることで、「自分にはこういう特徴があったのか」と見え方が変わることがあります。

できないところだけではなく、できるところにも目を向けてください。

少しでも毎日の生活が楽になる方法を、一緒に探していければと思います。

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よくある質問

Q
大人になってからASDになることはありますか?
A

ASDの特性は発達の早い段階から存在すると考えられています。ただし、子どもの頃には困りごとが目立たず、仕事や人間関係が複雑になる大人になってから診断される方はいます。

Q
ASDはよくなりますか?
A

ASDは生涯にわたる神経発達上の特性と考えられています。特性そのものをなくすことを目標にするのではなく、本人の得意・不得意を理解し、環境調整や適切な支援を行うことで生活しやすくなる可能性があります。

Q
ASDの薬はありますか?
A

ASDの中核的な特性そのものをなくすための薬は一般的には使用されません。一方、不安、うつ、ADHD、睡眠の問題などが重なっている場合には、医師の判断で薬が使われることがあります。

Q
ASDでも普通に仕事はできますか?
A

ASDのある方の中にも、仕事を続けている方はいます。重要なのは職種だけではなく、仕事内容、指示の分かりやすさ、職場環境、本人の得意不得意などとの相性です。

Q
家族はどのように接したらいいですか?
A

「普通にして」「ちゃんとして」など曖昧な表現を減らし、具体的に伝えることが一つの方法です。また、本人が何に困っているのかを聞き、感覚過敏や予定変更など苦手な状況を理解することも大切です。

参考文献・参考資料

  • 国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター「発達障害とは」
  • 厚生労働省「発達障害の特性(代表例)」
  • World Health Organization「Autism」2025
  • NICE「Autism spectrum disorder in adults: diagnosis and management(CG142)」
  • テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン著/中尾ゆかり訳『動物感覚―アニマル・マインドを読み解く』NHK出版、2006年