
最近、思いきり泣いたことはありますか?
つらいことがあっても我慢したり、人に気を使って笑顔をつくったり、不安を感じても「大丈夫」と自分に言い聞かせながら頑張っている方もおられると思います。
一方で、映画やドラマを見て思いきり泣いたあとに「なんだかスッキリした」「少し気持ちが軽くなった」と感じた経験はないでしょうか。
私自身も以前はなかなか泣けないタイプでしたが、最近は映画や動画を見て自然に涙が出ることがあります。泣いたあとは、張りつめていた心や身体が少しゆるんだように感じます。
実は、この「泣いたあとのスッキリ感」については、涙とストレス、自律神経との関係を調べた研究があります。
そして私は、この身体の反応が、不安やパニックで悩んでいる方にとっても大切なヒントになると考えています。
この記事で一番お伝えしたいのは、不安になっても、身体はまた落ち着く方向へ戻っていけるということです。
不安になると身体も一緒に反応します
不安や恐怖を感じると、心臓がドキドキしたり、呼吸が速くなったり、身体に力が入ったり、汗が出たりすることがあります。
パニック発作でも、動悸や息苦しさ、ふわっとする感じなどをきっかけに「このまま倒れるのでは」「また発作が起きるのでは」と不安が大きくなることがあります。
不安を感じることで身体が緊張し、その身体の変化がさらに気になって、また不安が強くなるという悪循環につながることもあります。
そんなときに大切なのが、自律神経の「メリハリ」です。
自律神経はメリハリが大切
自律神経には、活動するときに働きやすい交感神経と、休息するときに働きやすい副交感神経があります。
仕事や運動、集中するときには身体を活動させる方向へ働き、食事や休息、睡眠のときには身体を休ませる方向へ働きます。
大切なのは、いつもリラックスした状態を保つことではなく、頑張るときには身体をしっかり使い、休むときにはゆるめられることです。
私はこれを「自律神経のメリハリ」とお伝えしています。
不安になったときに身体が緊張することも自然な反応です。そのあと、安全だと感じられるようになれば、身体は少しずつ落ち着く方向へ変化していきます。
泣くとスッキリするのはなぜ?
東邦大学の有田秀穂先生は、2007年に『涙とストレス緩和』という論文を発表されています。
感情が動いて涙を流すときには脳の血流にも特徴的な変化が起こり、副交感神経側への大きな変化がみられることが報告されています。
さらに心理検査でも、泣いたあとに「混乱」が改善し、すっきり爽快な気分が現れたとされています。
私自身、有田秀穂先生からセロトニンDoJoで直接学ばせていただきました。
「いっぱい泣いたらスッキリした」という私たちが昔から感じていることを、自律神経や脳の働きから研究されているところがとても興味深いと思います。
涙とコルチゾールの関係
ストレスを受けると、コルチゾールというホルモンが分泌されます。
コルチゾールは血糖や血圧の維持、炎症の調節などに関わり、私たちがストレスに対応するために必要なホルモンです。
長期間ストレスが続くと、脳から副腎へとつながるHPA軸の働きが変化し、コルチゾールの反応が鈍くなる人がいることも報告されています。
そして感情の涙には、コルチゾールなどストレスに関係する物質が含まれています。
以前から、感情の涙によってストレスに関係する物質を外へ出すことが、泣いたあとのスッキリ感に関係しているのではないかという考え方が研究されてきました。
強く泣いた人ほど唾液中のコルチゾールが大きく低下したという報告もあります。
涙を流したあとのスッキリ感には、涙に含まれる物質だけでなく、自律神経や心拍、呼吸、感情の変化など、いくつもの働きが関係していると考えられています。
泣いたあと、身体は落ち着く方向へ変化する
海外の研究でも、感情的な映画を見て泣いた人では、泣き始めに心拍数が上がったあと比較的早く低下し、迷走神経の働きを反映する指標にも変化がみられています。
また、映画を見て泣いた人を調べた研究では、泣いた直後よりも少し時間がたってから気分が回復し、90分後には映画を見る前より気分が良くなったという結果も報告されています。
つまり、感情が大きく動いて涙が出たあと、心拍や呼吸、気分などが少しずつ落ち着く方向へ変わっていく可能性があります。
私は、この「また戻っていく」という身体の働きがとても大切だと考えています。
不安・パニックにも「戻る力」が大切
不安やパニックで悩んでいると、「また発作が起こったらどうしよう」「このドキドキがずっと続いたらどうしよう」と考えてしまうことがあります。
そんなときに知っておいてほしいのは、身体はずっと同じ状態ではないということです。
緊張した身体も、時間とともに心拍や呼吸が変化し、少しずつ落ち着く方向へ向かいます。
だからこそ、不安になっても、また戻ってこられるという感覚を少しずつ身体で覚えていくことが大切だと思います。
不安を感じないことを目指すのではなく、不安になったあとにも戻ってこられるという安心感を増やしていくことが、不安やパニックと付き合っていくうえで大切なポイントになります。
泣きたいときは感情に素直になってみる
私は以前、なかなか泣くことができませんでした。
思い返してみると、感情を表に出すよりも、知らないうちに抑えることが多かったのだと思います。
社会生活の中では、人に気を使ったり、悲しくても笑顔をつくったりすることもありますが、一人で安心して過ごせる時間くらいは、自分の感情に素直になってもいいのではないでしょうか。
悲しいとき、悔しいとき、うれしいとき、感動したときなど、自然に涙が出ることがあります。
映画や音楽、人の言葉など、自分の心が動くものに触れる時間も大切だと思っています。
私が実際に涙を流した映画「栄光のバックホーム」
元阪神タイガースの横田慎太郎さんの映画『栄光のバックホーム』を観てきました。
病と闘いながらも周りの人を励まし続けた横田さんの姿や、引退試合で見せたあのバックホームには、何度見ても胸を打たれます。
阪神が優勝したときの「横田さん、今どこで見てますか?」という実況を思い出したときにも涙があふれました。
映画「君の膵臓をたべたい」
この映画で特に心に残っているのが、男の子が女の子のお母さんの前で「もう泣いてもいいですか」と話す場面です。
それまで抱えていた感情があふれ出す場面で、私はここで涙がボロボロ出ました。
感情をずっと抱え込んでいた人が、ようやくそれを外に出せたように感じられて、とても印象に残っています。
私が感動して涙を流した動画
この記事に載せている動画も、私自身が実際に見て感動し、涙を流したものです。
人によって心が動くポイントは違いますので、同じ動画を見ても感じ方はさまざまです。
大切なのは、心が動いたときに、その感情を自然に感じることだと思っています。
不安になっても、また戻ってこられる
生活していれば、緊張することも、不安になることもあります。
身体にとって大切なのは、頑張るときには活動し、疲れたら休み、緊張したあとには再びゆるんでいけることです。
涙を流したあとの身体にも、強く動いた感情から少しずつ落ち着く方向へ戻っていく変化がみられます。
不安やパニックでつらくなったときにも、「大丈夫。また戻ってこられる」そう思える経験を少しずつ増やしていくことが、自律神経のメリハリを取り戻すことにもつながると私は考えています。
まとめ
泣いたあとに「スッキリした」と感じる背景には、涙に含まれるストレス関連物質だけでなく、自律神経、心拍、呼吸、感情の変化などが関係していると考えられています。
研究でも、感情的に涙を流したあとに副交感神経側への変化や気分の回復がみられることが報告されています。
そして、不安やパニックで悩んでいる方に一番お伝えしたいのは、不安になっても、身体はまた落ち着く方向へ戻っていけるということです。
涙は、その「戻る力」を感じるきっかけのひとつなのかもしれません。

参考文献
- 有田秀穂「涙とストレス緩和」日本薬理学雑誌 2007;129(2):99-103
- Hendriks MC, Rottenberg J, Vingerhoets AJJM. Emotion. 2007;7(2):458-463.
- Rottenberg J, et al. Psychophysiology. 2003.
- Gračanin A, Vingerhoets AJJM, Kardum I. Motivation and Emotion. 2015;39:953-960.
- Gračanin A, Bylsma LM, Vingerhoets AJJM. Frontiers in Psychology. 2014;5:502.




