小さい頃から父親に褒められたことがありません。
自分は結果でしか評価されてこなかったので他人にも、その価値観を押し付けてしまいます。自分が一番だと思ってしまい他人に認められたいと常に思っています。
時々一人ぼっちになってしまうという孤独感、不安感で胸が締め付けられます。
子どもや妻に激高して手を上げたこともあり反省しております。
40代の営業をやっている会社員の男性のAさんです。奥さんと息子さんの3人暮らしをしておられます。仕事は充実され自信に満ち溢れていましたが、会社でも家でも自分の思い通りにならないと怒りが爆発してしまうため奥さん、中学生の息子さんは、とってもお悩みでした。
Aさんは幼い頃から両親から”褒められたこと”がありませんでした。特に父親からは酷い言葉で罵声を浴びせられ虐待を受けていたそうです。母親は守ってくれましたが父親から酷いDV(暴力)を受けていたので言い返せなかったそうです。そんな母親が病気になり父親よりも先に他界されました。
その後、父親に育てられたAさんは「もっともっと頑張れ」「100点以外は0点と一緒だ」と言われ続けたそうです。
そうやって育ったAさんは、大人になっても自分で「こんなのはできて当たり前だ」「俺は他の奴らとは違うんだ」「自分の価値は営業の成績でしか評価されないんだ」と強く思い詰めるようになりました。
社会的には成功しているように見えていました。ですがある時、仕事で些細なミスをしたそうです。そんな時に自分の非を認めず、孤立するようになってしまったのです。
それから同僚や後輩からもバカにされるようなことがありました。この「イジリ」が彼にとっては耐え難いものでした。「誰かに認められたい」という承認欲求が人一倍強い彼にとって、とても辛いものでした。
こうやって育ったAさんは結婚し妻を持ち、子供を授かりました。
その子供に対しても、自分の歪んだ価値観を押し付けるようになり、妻と喧嘩になることも多くなりました。
ある日、息子さんに対して暴力を振るってしまいました。その理由が、奥さんにはどうしても理解するこができず、別れ話にまで発展することになりました。
その理由とは・・・
息子さんに暴力を振るった理由は、他人から見れば、「そんな事で、それ程怒りが湧いてくるの?」というようなことでした。
息子さんが水泳を習っていてAさんが送迎していました。息子さんは自分なりに一生懸命練習をしていました。
ある試合で息子さんは2位になりました。Aさんは息子さんに「1位になれなかったのはお前の練習不足のせいだ」と罵声を浴びせ殴りました。他の親御さんが助けに入るほど殴ったそうです。
この出来事に奥さんが止めに入ったのですが、Aさんは奥さんにも手を上げてしまったのです。
またある時は、会社の後輩が成績を上げて表彰された時「なんで俺の方が優秀なのにアイツが表彰されるんだ」と机をたたいたこともあるそうです。
またある時は、外食していて注文を先にしているのに、後に注文した隣のお客さんの方が先に料理が提供された時は、立ち上がって「なんで俺より先に隣の料理が先にできてるねん!」と激情して大きな声で罵倒したそうです。
このような心理状態や価値観の違いは、「あまりにも現実離れしている」と、奥さんが心療内科に連れていくことになり、そこで「自己愛性パーソナリティ障害」といわれました。
心療内科で治療をすすめながら当院にも通院してくださいました。身体の施術をさせていただき、認知の歪みを認知行動療法やいろんな心理ワークをやりながらすすめていきました。
特に「不安」からきていることも多いので奥さんの全面的な協力により愛着を形成していき他人のアドバイスを聞き入れる訓練を少しづつやっていきました。
Aさんは、その後、奥さんの助けを受けて自分の価値観を押し付けるようなことはなくなりました。本当に奥さんは根気よく支え続けられました。尊敬いたします。
Aさん家族は、今は楽しく過ごされています。
自己愛性パーソナリティ障害の特徴
自己愛性パーソナリティ障害は、以下のような傾向を持つ人に見られる性格の特性です。これらは頻繁に家族、仕事仲間、友人など周囲の人間関係に悪影響を与えることがありますので注意が必要です。
対人関係において「自己中心的」だといえます。
こんな性格や価値観の方は要注意です。
- 自分は他の人とは違う天才的な才能を持っている
- 自分は大成功するのが当たり前で特別な人間だ
- 自分が怒っている時は他人に責任があるに違いないと思う
- よくプライドが高いとか妬まれることが多いと思う
- 小さい頃から望むおもちゃなどは不自由なく買ってもらえた
- 自分の言う事、やる事は、すべて正しいと思うことが多い
- 否定されることを極端に避ける
- あまり人のアドバイスを聞き入れることはない
- 他人の気持ちに気づかない、わからない、無関心
- 完璧主義で強迫観念がある
- 小さい頃に母親が他界し必要な時の愛情が不足している
- 一人になる孤独がとても怖い、寂しい、不安である
- 自信満々に見えるが他人からの批判に過剰に敏感である
- 人を心の底から信用することができない
- チームスポーツは向かない、一人でできるスポーツが向いている
- 恥をかいたら激高する
- モラハラになりやすい
このような口癖の人は要注意
- 有名人と知り合いだ
- 自分は完璧だ
- 自分は特別だ
- 俺の言う事がきけないのか
- 俺のおかげで、みんな売上が上がったんだ
- 無能!グズ!ゴミ!もっとちゃんとしろ!俺の言う事を聞いておけばいいんだ!
- なんで自分ばかりこんな目にあうんだ
- できるけどやらないだけ、わかっているけど言わないだけ
原因
自己愛性パーソナリティ障害の原因には以下のような要素が考えられます。
- 幼少期の環境: 厳しすぎる躾
- 心理的防衛: 幼少期に褒められたことがなく、結果しか認めてもらえなかった
- 母親からの愛情不足
- 認知の歪み(完璧主義、白黒思考、感情的決めつけ、結論の飛躍)
対策
家族や周囲の方、仕事の同僚などに「自己愛性パーソナリティ障害」の方がいる場合の接し方にはコツがあります。
自分の都合が第一で他人を思いやる心が欠如しています。また急に機嫌が激変することもあります。
付き合い方としては、まずは、あなたは唯一無二の存在であると”褒める”ことが重要です。基本的には「不安神経症」「小心者」なことが多いので、サポートしてくれる優秀なマネージャー的なパートナーがいれば、とてもうまくいくことが多いです。
最初から、このようなことを理解した上で接することが大切です。仕事上、上司がこのようなタイプであれば仕方ないこともありますが、家族の場合は本当に大変です。
相手の承認欲求を満たしながら、うまく手のひらで転がすようにすることが大切です。
- 急に問題を指摘して直面化させない(キレて激高する場合がある)
- 仕事の成果については明確にして文章にする
- 育った環境が影響していることが多いので本人を責めない
- 腫れものを触るような特別扱いはしない
- 複数人で平等に対応する
- 失敗は学びだということを理解してもらうようにしていく
当院でのアプローチが好転した訓練
愛着形成をし、奥さんにサポートしてもらいながら少しづつ価値観を変えていきました。
- 他人からのアドバイスを素直に受け取る訓練
- 自分を客観的にみる訓練
- 他人の気持ちを感じる訓練
- 認知の歪みを自覚してもらう訓練
このようなことに取り組んでいきました。少しづつですが思考に変化が出てきました。自分を客観的にみる訓練をすることで「認知の歪み」に気づくことができました。
まとめ
- 愛情不足を補う
- 認知の歪みを修正する
- 認知行動療法をしていく
- 他人の気持ちを理解できるように訓練する