
「久しぶりに運動したら、次の日から太ももが痛い」
「階段を下りるだけで脚が痛い」
「ダッシュした瞬間、ふくらはぎにピキッと痛みが走った」
同じ「運動後の筋肉の痛み」でも、普通の筋肉痛と肉離れでは対応が違います。
筋肉痛なら数日で自然に落ち着くことが多いのですが、肉離れの場合は筋肉そのものを傷めている可能性があります。
ちなみに僕も、運動不足なのに急に縄跳びをして、翌日から膝の周りが痛くなったことがあります。
肩を痛めた時は、久しぶりに倒立して腕立て伏せをしていました。
たまにやらかします(笑)
今回は、
筋肉痛はなぜ翌日にくるのか?
乳酸は関係あるのか?
冷やすのか、温めるのか?
ストレッチはした方がいいのか?
筋肉痛と肉離れはどう見分けるのか?
そして、最近のスポーツ医学で使われるようになった「PEACE & LOVE」についても紹介します。
まず知ってほしい|筋肉痛と肉離れは違います
一番分かりやすい違いは、「いつ痛くなったか」です。
| 筋肉痛 | 肉離れ | |
|---|---|---|
| 痛みが出る時期 | 運動後しばらくしてから | 運動中に突然 |
| 痛み方 | 重い、張る、動かすと痛い | ピキッ、ブチッと鋭い |
| 範囲 | 比較的広い | 一部分に強く出やすい |
| 腫れ・内出血 | 通常は目立たない | 程度によって出る |
| 経過 | 数日で改善することが多い | 損傷の程度によって長引く |
典型的な筋肉痛は、運動している最中よりも翌日になってから痛くなるのが特徴です。
一方、ダッシュ、ジャンプ、急な方向転換などの瞬間に強い痛みが出た場合は、肉離れなどの筋損傷を考える必要があります。
筋肉痛はなぜ翌日に痛くなる?
運動後に遅れて出てくる筋肉痛を、医学的には遅発性筋肉痛と呼びます。
特に起こりやすいのが、普段していない運動を急にした時です。
さらに筋肉は、縮みながら力を出す時よりも、伸ばされながら力を出す運動で筋肉痛が起こりやすくなります。
これを「伸張性収縮」といいます。
たとえばスクワットで身体をゆっくり下ろす時、山道や階段を下る時、ダンベルをゆっくり下ろす時などです。
昔は、
「筋肉に細かい傷ができる
↓
炎症が起こる
↓
翌日痛くなる」
と説明されることが多くありました。
現在はもう少し複雑に考えられています。
筋肉やその周囲の組織への変化、炎症反応に加えて、ブラジキニン、NGF(神経成長因子)、GDNFなどが痛みを感じる神経を敏感にする仕組みも研究されています。
興味深いことに、近年の研究では目立った筋損傷がなくてもDOMSが起こる場合があることが分かってきました。
つまり、「筋肉痛=筋肉が細かく切れている」と単純には説明できないのです。
筋肉痛は何時間後に出る?
一般的なDOMSは、運動後12〜24時間ほどで出始め、24〜72時間くらいで強くなることが多いとされています。
そこから徐々に楽になっていきます。
そのため、運動直後は何ともなかったのに、「次の日の朝、階段を下りようとしたら太ももが痛い!」というのは珍しくありません。
翌々日に筋肉痛がくるのは年齢のせい?
「年を取ると筋肉痛が2日後にくる」よく聞きますよね。
でも、筋肉痛が出るタイミングは、運動の種類、強さ、普段どれくらい運動しているか、筋肉への負荷などでも変わります。
「翌日なら若い、翌々日なら年を取った証拠」と判断できるものではありません。
筋肉痛は「乳酸が残っている」からではありません
これも昔よくいわれていました。
「乳酸が筋肉にたまっているから筋肉痛になる」
僕も昔はそう習った記憶があります。
しかし現在は、翌日以降に起こるDOMSを乳酸の蓄積で説明する考え方は支持されていません。
乳酸は運動によって増えますが、翌日や翌々日まで筋肉に残り続けて筋肉痛を起こすわけではありません。
さらに、乳酸そのものが運動時の「酸性化」を起こす物質という昔の説明も見直されています。
これは知っておくと、ちょっと「へぇ~」ですよね。
同じ運動をすると、次は筋肉痛が少なくなる?
久しぶりにスクワットをした時、「次の日、トイレに座るのもつらかった」という経験はありませんか?
ところが何回か続けていると、同じ運動をしても最初ほど筋肉痛が出なくなります。
これは気のせいではありません。
Repeated Bout Effect(繰り返し効果)という現象が知られています。
一度経験した運動に筋肉や神経などが適応し、次に同じような負荷が加わった時には、筋肉痛や筋機能の低下が小さくなることがあります。
2023年のシステマティックレビュー・メタ解析でも、同じような運動を2回行った場合、2回目ではDOMSなどが小さくなることが確認されています。
だから、「久しぶりに一気に頑張る」より「少しずつ続ける」方が身体には優しいのです。
筋肉痛になったら休む?動いた方がいい?
痛みが強い時に、無理してトレーニングする必要はありません。
ただ、普通の筋肉痛であれば、ずっと寝たまま完全に動かさない必要もありません。
散歩や軽い体操など、痛みが強くならない程度に身体を動かすくらいで十分です。
ここで大切なのは、「早く治したいから頑張って動かす」ではなく、「今日の身体が許してくれる範囲で動く」という考え方です。
筋肉痛は冷やす?温める?
これもよく聞かれる質問です。
普通の筋肉痛であれば、「筋肉痛だから必ず氷で冷やす」必要はありません。
運動後の冷水浴については、何もしない場合と比較すると筋肉痛を軽減する可能性があります。とはいえ、冷やさないと回復しないわけではありません。
いつもの筋肉痛で、強い腫れや外傷がなければ、ぬるめのお風呂に入ってリラックスするのもよいでしょう。
一方、
運動中に急に傷めた
大きく腫れている
内出血している
という場合は、普通の筋肉痛とは分けて考えてください。
ストレッチをすれば筋肉痛を予防できる?
これも意外かもしれません。
運動後にストレッチをすると、「これで明日の筋肉痛を防げる!」と思いますよね。
ところが2021年のシステマティックレビュー・メタ解析では、運動後のストレッチをしても、何もしない場合と比べて24時間、48時間、72時間後の筋肉痛を明確に減らす効果は確認されませんでした。
もちろんストレッチ自体が悪いわけではありません。
身体を動かして気持ちがいい、柔軟性を保ちたい、といった目的で無理なく行うのはよいと思います。
ただ、「筋肉痛を防ぐために、痛いのを我慢してグイグイ伸ばす」必要はありません。
RICEから「PEACE & LOVE」へ
ここは僕も面白いと思ったところです。
僕が柔道整復師の専門学校で学んでいた頃、急性のケガの基本といえばRICE処置でした。
REST(安静)
ICE(冷却)
COMPRESSION(圧迫)
ELEVATION(挙上)
その後、PRICE、POLICEという考え方が登場しました。
そして2019年にBritish Journal of Sports Medicineで提案され、2020年に掲載されたのが、「PEACE & LOVE」です。
名前がいいですよね(笑)
これは普通の筋肉痛というより、肉離れや捻挫など軟部組織を傷めた時の考え方です。
ケガをした直後は「PEACE」
P=Protect(保護)
傷めた直後は無理をせず、悪化させる動きを避ける。
E=Elevate(挙上)
腫れがある場合は患部を高くする。
A=Avoid anti-inflammatory modalities
炎症は修復過程の一部でもあるため、抗炎症薬や冷却を「とにかく炎症を止めるため」にルーチンで使うことに疑問を投げかけています。
C=Compress(圧迫)
必要に応じて圧迫する。
E=Educate(教育)
「ずっと安静」ではなく、回復の見通しや適切な動かし方を知る。
その後は「LOVE」
L=Load(負荷)
痛みをみながら少しずつ負荷を戻す。
O=Optimism(楽観性)
「もう動かしたらダメ」と必要以上に怖がらない。
V=Vascularisation(血流を促す活動)
痛みのない範囲で有酸素運動などを取り入れる。
E=Exercise(運動)
可動域、筋力、身体のコントロールを段階的に戻していく。
以前の「傷めたら安静」という考え方から、「最初は守る。でも、ずっと休ませるのではなく、適切な時期から少しずつ使っていく」という考え方へ変わってきたわけです。
ただし、PEACE & LOVEは一つの提案された考え方であり、すべてのケガに同じように当てはめるものではありません。
特に「A」の抗炎症薬や冷却については、痛みの強さやケガの程度によって医師の判断も変わります。
自己判断で処方薬を中止するようなことはしないでください。
筋肉痛を早く回復するために大切なこと
残念ながら、「これをすれば筋肉痛が一晩で消える」という方法はありません。
それよりも、
- 強い痛みがある間は負荷を下げる
- 痛くない範囲で軽く身体を動かす
- 睡眠をしっかりとる
- 水分をとる
- 食事を抜かない
- 回復してから徐々に負荷を戻す
という基本が大切です。
特別なことよりも、この辺なんですよね。
筋肉痛には鶏むね肉?プロテイン?
筋肉を使った後なので、タンパク質はもちろん大切です。
肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などから摂ることができます。
ただ、「筋肉痛だからタンパク質だけ食べる」というのも違います。
運動では筋肉に蓄えているグリコーゲンも使うため、ご飯、パン、麺、いも類などの炭水化物も大切です。
たとえば、「ご飯+魚+味噌汁+野菜」のような普通の食事で十分です。
2023年のメタ解析では、運動前後のタンパク質摂取が筋力回復などに役立つ可能性は示されていますが、筋肉痛そのものを明確に減らす効果は確認されませんでした。
プロテインを飲めば、翌日の筋肉痛がなくなるわけではないんですね。
これは普通の筋肉痛ではなく「肉離れ」かもしれません
肉離れは、筋肉が急激に引き伸ばされたり、強い力を出した時に起こりやすくなります。
特に太ももの裏のハムストリングスでは、全力疾走や急な加速などで起こります。
「走った瞬間にピキッときた」
「その場で走れなくなった」
「一部分だけ押すとかなり痛い」
「腫れや内出血が出てきた」
こういった場合は、普通の筋肉痛として様子を見るより、筋損傷の程度を確認した方がよいでしょう。
肉離れの場合も、回復に合わせて段階的に負荷を戻していくことが大切です。
焦ってダッシュや強いストレッチに戻すと、再発につながることがあります。
こんな痛みは病院で確認してください
普通の筋肉痛は数日で徐々に軽くなっていきます。
一方で、次のような場合は整形外科などで確認してください。
- 歩けないほど痛い
- 大きく腫れている、内出血が広がっている
- 筋肉に明らかなへこみや変形がある
- 力が入らない
- しびれや感覚の異常がある
- 日ごとに痛みが強くなる
- 1週間ほど経過しても強い痛みが続く
そしてもう一つ、知っておいてほしい症状があります。
激しい運動のあとに、「予想以上に強い筋肉痛」「強い脱力」「コーラや紅茶のような濃い色の尿」が出た場合です。
これは「横紋筋融解症」という状態でもみられる症状なので、早めの医療機関受診が必要です。
当院でできること
運動後の痛みをみる時には、「筋肉が硬いからほぐしましょう」だけで判断することはありません。
いつ痛くなったのか、どんな動作で痛めたのか、腫れや内出血はないか、どの動きで痛むのかなどを確認します。
肉離れや骨・靱帯の損傷などが疑われる場合は、整形外科での検査を優先します。
一方、一般的な筋肉痛やケガからの回復期では、身体の状態をみながら、運動量や身体の使い方、負荷の戻し方なども一緒に考えていきます。
大切なのは、「痛いから全部休む」「早く治したいから無理して動く」のどちらかに偏らないことです。
身体が回復していく段階に合わせて、少しずつ戻していきましょう。
よくある質問
- Q筋肉痛が年齢とともに遅く出るのは本当ですか?
- A
「年を取ると筋肉痛が2日後にくる」とよく言われますが、はっきりした根拠はありません。
筋肉痛が出る時期は、年齢よりも運動の種類や強さ、普段の運動習慣などに影響されます。
- Q筋肉痛は冷やす?温める?
- A
普通の筋肉痛なら必ず冷やす必要はありません。強い腫れのない場合であれば、お風呂などで無理なく温めても構いません。
- Q筋肉痛には湿布を貼った方がいいですか?
- A
湿布は痛みを軽くする目的では使われますが、筋肉痛そのものを早く治す薬ではありません。痛みが強い場合や長引く場合は原因を確認することが大切です。当院ではおすすめしておりません。
- Q筋肉痛の翌日に軽く運動すると回復しやすいですか?
- A
痛みが強くない筋肉痛なら、軽く歩くなどの「アクティブレスト」で、こわばりや痛みが楽になることがあります。
桑田真澄さんも現役時代から「積極的休養」を取り入れていましたが、肉離れなどのケガに無理して運動するという意味ではありません。
- Q筋肉痛の時に早く回復するためにおすすめの食べ物はありますか?
- A
特定の食べ物だけで筋肉痛が早く治るわけではありません。
魚・肉・卵・大豆製品などのたんぱく質と、ご飯・いも類などの炭水化物を組み合わせ、しっかり食べて休むことが基本です。
まとめ
運動後に出る普通の筋肉痛は『遅発性筋肉痛』と呼ばれ、12〜24時間ほどしてから現れ、24〜72時間程度で強くなることがあります。
昔いわれていた「乳酸が残っているから翌日痛い」という説明は、現在では支持されていません。
そして意外なところでは、運動後に一生懸命ストレッチをしても、翌日の筋肉痛を大きく減らせるとは限らないことも分かっています。
一方、運動中に突然「ピキッ」と痛みが出た場合は、肉離れなどの筋損傷を考える必要があります。
ケガへの対応も、昔のRICEから、現在は「PEACE & LOVE」のように、最初は守り、その後は適切な負荷を少しずつ戻していくという考え方が提案されています。
久しぶりに身体を動かす時ほど、最初から100%頑張らないこと。
僕自身も気をつけないといけませんね(笑)
まずは軽いところから、コツコツ続けていきましょう。

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参考文献
- 『標準整形外科学 第16版』:田中栄・髙木理彰・松田秀一・谷口昇・今釜史郎 編集
- 『スポーツ整形外科テキスト』:日本スポーツ整形外科学会 編集
- 『今日の整形外科治療指針 第7版』:土屋弘行・紺野愼一・田中康仁・田中栄・松田秀一 編集
- 『スポーツ理学療法学 第3版』:陶山哲夫 監修/赤坂清和 編集
- 『ビジュアル版 徹底解剖 運動に関わる筋肉のしくみ』:石井直方



