
「誰かが自分の悪口を言っている気がする」
「見張られているように感じる」
「自分にしか聞こえない声が聞こえる」
統合失調症では、幻聴や妄想、不安などが強く現れることがあります。周囲の人には聞こえていない声でも、ご本人には本当に聞こえているため、とても怖く苦しい状態です。
また、症状が少し落ち着いたからといって、すぐに以前の生活へ戻れるとは限りません。長期間の休職や入院で体力が落ちていたり、睡眠が乱れていたり、人と話すだけでも疲れてしまったりする方もおられます。
当院ではこれまで、精神科の先生から統合失調症の方を3名ご紹介いただき、実際に来院していただきました。
すべての方が長期間通われたわけではありません。症状が強くなることで人への不信感が強まり、途中で来られなくなった方もおられます。一方で、精神科での治療を続けながら当院にも長く通っていただき、生活が安定し、仕事へ復帰された方もおられます。
今回は、実際に約2年間関わらせていただいた方の症例を中心に、統合失調症と身体、心理、栄養、復職についてお話しします。
※個人が特定されないよう、症例の一部は簡略化しています
統合失調症とは
統合失調症は、考えや感覚、感情、行動などをうまくまとめにくくなる精神疾患です。
代表的な症状には次のようなものがあります。
| 症状 | 具体例 |
|---|---|
| 陽性症状 | 幻聴、妄想、強い疑い |
| 陰性症状 | 意欲低下、表情が乏しい、人と会いたくない |
| 認知機能の問題 | 集中しにくい、考えを整理しにくい |
| その他 | 不眠、不安、緊張、生活リズムの乱れ |
特に幻聴や妄想が強い時期は、本人にはそれが現実として感じられています。そのため、「そんなことは起きていない」と強く否定するだけでは、不信感がさらに強くなることもあります。
統合失調症の原因は一つではありません
統合失調症の原因は、現在も完全には解明されていません。
遺伝的要因、脳内の神経伝達、生活環境、ストレスなど、複数の要因が重なって発症すると考えられています。
実際にクライアントさんをみていると、それまで何とか生活できていた方が、仕事や人間関係などの大きなストレスをきっかけに一気に体調を崩すケースがあります。
今回紹介する方も、発症前には職場で非常に強いストレスを受けていました。
統合失調症とドーパミン
統合失調症を考えるうえで、昔から注目されている神経伝達物質がドーパミンです。
以前は「統合失調症はドーパミンが多すぎる病気」と説明されることも多くありましたが、現在ではもう少し複雑に考えられています。
幻聴や妄想などの陽性症状では、線条体など一部のドーパミン神経系の活動が高まっていることが報告されています。一方で、前頭葉などではドーパミン機能が低下している可能性もあり、脳全体で単純にドーパミンが増えているわけではありません。
そのため、ドーパミンについて考えるときも、単純に増やす・減らすという話だけではなく、神経伝達がどのような状態になっているのかを考える必要があります。
ドーパミンと分子栄養学
私は分子栄養学も学んでいますので、統合失調症の方でも食事や栄養状態を確認しています。
ドーパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質は、食事から摂取したタンパク質を材料にして作られます。
大まかな流れは次のようになります。
タンパク質
→ フェニルアラニン
→ チロシン
→ L-DOPA
→ ドーパミン
→ ノルアドレナリン
この変換には、さまざまな栄養素や補酵素が関係しています。
| 変換 | 関係する栄養素など |
|---|---|
| チロシン → L-DOPA | 鉄、BH4など。葉酸代謝も関与 |
| L-DOPA → ドーパミン | ビタミンB6 |
| ドーパミン → ノルアドレナリン | ビタミンC、銅 |
チロシンからL-DOPAへの変換では、チロシン水酸化酵素という酵素が働きます。この反応には鉄とBH4(テトラヒドロビオプテリン)が必要です。
分子栄養学では葉酸も重要視されます。葉酸そのものがこの反応の直接の補酵素というわけではありませんが、葉酸代謝はBH4やモノアミン代謝との関係が研究されています。
その後、L-DOPAからドーパミンへの変換にはビタミンB6、ドーパミンからノルアドレナリンへの変換にはビタミンCや銅が関係します。
このような生化学をみても、神経伝達と栄養は無関係ではありません。
統合失調症と栄養については、葉酸、ビタミンB12、ビタミンD、オメガ3脂肪酸、NACなど、さまざまな研究があります。すべての方に同じ変化が出るとはいえませんが、食事や栄養状態を確認することは大切だと考えています。
【実際の症例】強い職場ストレスから休職された方
ここからは、実際に当院で長く関わらせていただいた方のお話です。
この方は会社員として働いておられました。生真面目で責任感が強く、嫌なことがあってもその場で言い返すより、自分の中で我慢してしまうことが多い方でした。
幼少期から家庭環境や人間関係でもつらい経験があり、発達的な特性も持っておられました。
職場での強いストレス
職場では上司から強い叱責を受けることが続いていました。
ある日、仕事上のミスをきっかけに、皆の前で人格まで否定されるような強い叱責を受けたそうです。
その頃から職場で強く萎縮するようになり、人と話すことも難しくなっていきました。仕事を休む日が増え、最終的には休職することになりました。
幻聴や妄想が強くなった時期
休職する頃には、「誰かが自分の悪口を言っている」「陰で笑われている」と感じることが増えていました。
周囲の人には聞こえていない声が、本人にははっきり聞こえていました。また、誰かにつけられているように感じたり、何気ない出来事に特別な意味があるように感じたりして、妄想や不安もかなり強くなっていました。
日常生活にも大きな支障が出るようになり、精神科への入退院を繰り返す状態になりました。自傷の心配もあり、安全確保のため入院が必要になるほど状態が悪化していた時期もありました。
そのような中、お母さまから当院へ相談をいただきました。
初めて来院されたとき
初めてお会いしたときは、表情がかなり乏しく、身体にも強く力が入っていました。呼吸も浅く感じ、手が少し震えていることもありました。
抗精神病薬では種類によって、手の震えや筋肉のこわばりなどの錐体外路症状が出る場合があります。ただ、その時に見られた状態がすべて薬によるものとは判断できません。
当院では身体への負担をできるだけ少なくするため、ごく弱い刺激から施術しました。首や背中、胸まわりを中心に全身の緊張を確認し、短時間から身体を調整していきました。
初回の施術後には、来院時より表情が少しやわらぎ、呼吸も楽になったように感じました。一緒に来られていたお母さまも、その様子を見て喜んでおられました。
再び症状が悪化し再入院
しかし、そのまま順調に進んだわけではありません。
1週間ほどすると再び症状が強くなり、約1カ月後には精神科へ再入院することになりました。その後もしばらく入退院を繰り返しました。
退院されるたびに、体調が許す範囲で当院へ来てくださいました。
統合失調症の経過は一直線ではありません。良い時期が続くこともあれば、一度落ち着いた症状が再び強くなることもあります。
当院でもその時々の状態をみながら、身体の緊張、疲労、睡眠、食事、活動量などを確認していきました。

約2年後、仕事へ復帰
約2年間関わらせていただく中で、少しずつ表情が変わり、外出できる時間や活動できる時間も増えていきました。
精神科での治療を継続しながら生活を整えていき、最終的には仕事へ復帰されました。
現在も薬は継続されています。当院にはメンテナンスとして1〜2カ月に一度程度来院されています。
初めてお会いした頃を考えると、本当に大きな変化でした。何より、ご本人が長い時間をかけてよく頑張られたと思います。
当院が身体の調整を大切にしている理由
心がかなりしんどい状態の方をみると、身体も同時に疲れていることが少なくありません。
身体の緊張が強い、呼吸が浅い、眠れない、食欲が落ちる、外出する体力がない、生活リズムが崩れているなど、身体にもさまざまな変化が出ています。
当院では、身体の緊張や動き、呼吸、疲労、睡眠、栄養状態などを確認します。身体の負担が減り、睡眠や活動量が少しずつ戻ってくると、外出しやすくなったり、家族との会話や日常生活に使えるエネルギーが増えたりすることがあります。
その方の状態をみながら、身体からも生活を立て直していくことを大切にしています。
心理面では信頼関係を大切にしています
統合失調症の方に関わっていて難しいと感じることの一つが信頼関係です。
昨日まで普通に話せていた人に対しても、症状が強くなると「この人も自分をだまそうとしているのではないか」「自分の悪口を言っているのではないか」と感じることがあります。
当院でも、それまで継続して来られていた方が急に来られなくなった経験があります。
これは単純に、やる気がない、続ける気がないという話ではありません。幻聴や妄想、不安が強くなることで、人を信用すること自体が難しくなる場合があります。
そのため、私は正しいことを伝えるだけでは十分ではないと考えています。安心して話せること、否定されずに話を聞いてもらえること、その人が「ここなら話しても大丈夫」と感じられる関係を作ることも大切です。
症状が比較的落ち着いている時期には、何がストレスになっているのか、どんな場面で不安が強くなるのか、何を我慢しているのかなどを一緒に整理します。
必要に応じて認知行動療法の考え方も参考にしますが、その日の身体や心理状態をみながら進めます。
栄養面では生活全体を確認します
栄養面では、いきなりサプリメントの話をするのではなく、まず普段の食事や生活を確認します。
- 朝食を食べているか
- 食事回数や食事量
- タンパク質が摂れているか
- 甘い物やカフェインに偏っていないか
- 胃腸の状態
- 便秘や下痢の有無
- 睡眠時間
- 体重の変化
- 運動量や活動量
必要があれば、病院で行った血液検査の結果を見せていただくこともあります。
鉄やビタミンB群など神経伝達物質に関係する栄養素だけでなく、血糖、肝機能、脂質なども確認します。
特に抗精神病薬では、薬によって体重、血糖、脂質などに影響が出ることがあります。精神面と身体面の両方をみていくことが大切です。
復職では体力も重要です
症状が少し落ち着いてくると、「早く仕事に戻らないと」と焦る方がおられます。
しかし仕事へ行くためには、朝起きて準備をし、通勤し、人と話しながら何時間も働いて帰宅するだけの体力が必要です。集中力や人間関係への対応力も求められます。
当院では復職前の体力を見る一つの目安として、「2時間程度、無理なく連続して歩けるくらいまで体力が戻っているか」を確認することがあります。これは医学的な復職基準ではなく、「通勤して、働いて、また帰ってこられるだけの体力が戻っているか」をみるための当院での目安の一つです。
もちろん歩ける時間だけで復職を決めるわけではありません。
- 睡眠が取れているか
- 朝起きられるか
- 外出した翌日に疲れが残りすぎないか
- 人と話したあとに極端に消耗しないか
- 食事が安定しているか
こうした部分も含めて考えます。
復職するときも、最初から以前と同じ勤務時間に戻すのではなく、時短勤務や勤務日数の調整などをしながら、少しずつ仕事に慣れていくことが大切です。
ご家族も全部を背負わないことが大切です
統合失調症は、ご本人だけでなくご家族もとても疲れます。
昨日まで落ち着いて話せていたのに急に疑われたり、夜眠れない状態が続いたりすると、ご家族の生活にも大きな影響が出ます。
ご家族には次のようなことも意識していただきたいと思います。
- 本人を怠けていると決めつけない
- 幻聴や妄想を頭ごなしに否定しない
- 家族だけで問題を抱え込まない
- 医師や支援者と情報を共有する
- 家族自身の生活や楽しみも大切にする
- 本人との距離を適度に保つ
家族の誰か一人だけが頑張り続ける形にしないことも大切です。
よくある質問
- Q統合失調症で精神科に通院中でも相談できますか?
- A
はい。実際に当院では、精神科に通院しながら来院されている方がおられ、精神科の先生からご紹介いただいたこともあります。
現在の治療内容や体調を確認しながら、身体の緊張、疲労、睡眠、食事、栄養状態、生活リズムなどをみていきます。
- Q幻聴や妄想がある状態でも施術できますか?
- A
その日の状態によります。
幻聴や妄想が強くても落ち着いて施術を受けられる方もおられますが、興奮が非常に強い、自傷・他害のおそれがある、会話や施術が難しい状態では、精神科での対応を優先していただく場合があります。
当院では強い刺激を避け、その方の状態に合わせて身体への負担が少ない施術を行います。
- Q統合失調症では身体もみた方がいいのでしょうか?
- A
身体の状態も大切だと考えています。
統合失調症の方では、不眠、疲労、身体の緊張、運動不足、食欲の変化、体重変化などが重なることがあります。また、抗精神病薬によって体重、血糖、脂質などに変化が出る場合もあります。
当院では精神面だけでなく、身体、睡眠、活動量、食事なども一緒に確認しています。
- Q栄養についても相談できますか?
- A
はい。当院では分子栄養学の視点から、普段の食事、タンパク質、鉄、ビタミンB群などの栄養状態についても確認しています。
ドーパミンなどの神経伝達物質が作られる過程にも、アミノ酸や鉄、ビタミンB6、ビタミンC、銅などが関係しています。
必要に応じて、病院で受けた血液検査の結果を参考にすることもあります。
- Q仕事へ復帰したいのですが相談できますか?
- A
はい。今回紹介した症例も、長期間の休職と入退院を経験したあと、約2年間かけて仕事へ復帰されました。
復職では症状だけでなく、睡眠、生活リズム、体力、外出できる時間、人と接したときの疲労なども確認します。必要に応じて、時短勤務など段階的な復職も検討していただきます。
まとめ
統合失調症では、幻聴や妄想などの症状だけでは、その方の状態すべてを把握することはできません。
身体が強く緊張している方、眠れていない方、食事が十分に取れていない方、長期の休職で体力が落ちている方、人間関係のストレスを抱えている方など、状態は一人ひとり違います。
当院ではこれまで精神科の先生から統合失調症の方をご紹介いただき、実際に関わってきました。その経験からも、身体、心理、栄養、睡眠、生活、家族、復職まで、その方全体をみていくことが大切だと感じています。
今回紹介した方も、一度施術を受けてそのまま順調に進んだわけではありません。症状が再び強くなり、再入院した時期もありました。
それでも精神科での治療を続けながら身体の状態を確認し、生活を少しずつ整え、最終的には仕事へ復帰されました。
精神科に通院しているけれど身体もしんどい、眠れない、体力が戻らない、食事や栄養も気になる、仕事へ戻ることに不安があるという方はご相談ください。

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参考文献・出典
- 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト 統合失調症」
- World Health Organization「Schizophrenia」
- NICE「Psychosis and schizophrenia in adults: prevention and management」
- Howes OD, et al. Schizophrenia: from neurochemistry to circuits, symptoms and treatments. Nature Reviews Neurology
- Daubner SC, et al. Tyrosine hydroxylase and regulation of dopamine synthesis
- Firth J, et al. The effects of vitamin and mineral supplementation on symptoms of schizophrenia
- Xu X, et al. The efficacy of nutritional supplements for the adjunctive treatment of schizophrenia in adults
- 『わが家の母はビョーキです』中村ユキ



